第6話:スマホ画面と“つっかえ”のナゾ📱💥

ポッドが止まったのは、まるで巨大スマホの中だった。


透明なガラスの床。

壁一面に広がるアプリ風のパネル。

天井からは、SNSの通知がホログラムで降ってくる。


「え、なんか既視感……」

リオが思わずつぶやく。


「これ、完全に“いつものスマホ”の中だよね」

「でも、どこか変……ほら、タップしたときの反応がちょっと遅い」


アカリがパネルに触れながら、首をかしげた。


「指が……すべるようで、すべらない?」


たしかに。

画面をスワイプしようとすると、一瞬“つっかえる”。

ちょっとベタついた感じ。

あの“きれいなガラス”の感触じゃない。


すると、ユリスの声が響いた。


《これは、“摩擦のスタジオ”です。

スマホの画面に起きている、見えない“ひっかかり”の正体――

それを、きみたちに体で感じてもらいます。》


床がわずかに沈んだ。

すると足元に、何かが浮かび上がってくる。


指の形をした“摩擦精”たちだ。


表面はザラザラしていて、笑いながら足元をすべるでもなく、

ひっかかるでもなく、微妙な動きを見せてくる。


「なにこれ……かわいいけど、うっとおしい!」

「ちょっと押しても、すぐ止まるじゃん」


リオが床に乗ったスライドボードをすべらせてみると、

ボードの下にいる“摩擦精”がブツブツ文句を言っていた。


「あ、ちょっと! それ重いんですけど〜」

「うちらの背中、そんなに踏まないでくださいよ〜!」


カイが笑いながら言う。


「え、もしかして摩擦って……“押し返してるやつ”なの?」


《その通り。

摩擦とは、“動かされそうになると、つっかえようとする力”です。

動くことに反対する、いわば“ブレーキ役”。

でも、それがなければ――きみたちは立つことも、スマホを持つこともできません。》


アカリがふと気づいたように言った。


「……じゃあ、画面を“すべすべ”にするって、

“摩擦精”たちをおとなしくするってこと?」


《正確には、“粒子のひっかかり”をなめらかにすることです。

どんなにツルツルに見えても、

表面にはミクロのデコボコがあります。

その間に、指の表面が入りこみ、ぶつかり、すべろうとして、

“つっかかる”のです。》


「見た目じゃ、わからないんだ……」


アカリが画面にそっと指をすべらせると、

摩擦精たちがちいさくささやいた。


「ねえねえ、気づいてる?

ぼくらは、動きを止めるためにいるんじゃないんだ。

“動きを感じさせる”ためにいるんだよ」


その言葉に、リオがピタリと止まった。


「……たしかに、“すべる感覚”って、摩擦があるからこそわかるよな」


「“つっかかる”から気づくんだね。

すべてがスルスルだったら、逆にこわいかも」


カイがそっとつぶやく。


ユリスの声が重なるように降ってきた。


《摩擦は、きみが世界とつながっている“接点”です。

目に見えなくても、

その“ひっかかり”が、存在を教えてくれるのです。》


ポッドが再び現れる。

床の摩擦精たちが、軽く手をふって見送ってくれた。


「……次からスマホふくとき、ちょっと思い出しそう」

「でもなんか、“つっかかり”って、悪いやつじゃなかったんだな」

「たしかに。むしろ、いなきゃ困る存在かも」


3人はポッドに乗り込み、

画面の奥でピカリと光る“次のステージ”へと向かった。

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