第5話:あつあつスープとエネルギーのバケツリレー 🍲🔥
ワンダーループの空中軌道を抜けて、ポッドが滑り込んだのは――
湯気がゆらゆらと立ちのぼる、巨大なフードコートだった。
「……おなか、すいてきた」
リオが小声でつぶやく。
目の前にあるのは、ありえないほど大きなスープ皿。
湯気が空へ吸い込まれていくのが見えるほど、ぐつぐつ音を立てている。
「え、でかすぎない?」
「スープっていうか、これはもう湖だよ……」
アカリとカイも、あきれながらもなぜか笑っている。
そのとき、ユリスの声が響いた。
《ようこそ。“エネルギーのバケツリレー”へ。
ここでは、“熱”がどうやって伝わるのかを、
目と体で感じてもらいます。》
リオたちは、スープの上に浮かぶ巨大なクルトン型のボートに乗せられた。
足元はふかふかで、ほんのり温かい。
「うわ……あったか。これ、ただのスープじゃない」
「温度って、こうやって“体でわかる”ものなんだな……」
《さあ、“熱”を目で見てみましょう。》
ユリスの言葉とともに、スープの液面に赤い光の粒子が現れた。
それは、パチパチと跳ねながら、すぐ近くの銀色のスプーン型ブリッジへぶつかっていく。
「あ、移った……!」
スプーンの表面がじわじわと赤くなり、熱を受け取っているのがわかる。
《熱は、“エネルギーのリレー”です。
熱いものから冷たいものへ、粒子たちがぶつかりあいながら、
まるで“バケツリレー”のように、エネルギーを手渡していくのです。》
「熱って、“移る”ものなんだね。
ただそこにあるんじゃなくて、“渡っていく”……!」
アカリが、思わずスプーンに手をかざす。
「ちょっとずつだけど、伝わってる。静かに、でも確実に……」
カイが目を見開いた。
「ってことは、金属のスプーンが熱くなるのも、
“スプーンの中の粒”が順番にリレーしてるから?」
《その通り。
粒子たちは、押し合いながら隣に“エネルギー”をわたしていく。
それが、“熱伝導”です。》
リオが、そっと自分の手のひらを見つめる。
「じゃあ……誰かの手が温かいって思うとき、
その人の熱が、俺に“わたってきてる”ってこと?」
一瞬、静かになる。
「……そう考えると、“手をつなぐ”って、ちょっと深くない?」
「わかる。あったかいって、気持ちもついてくる感じするもんね」
アカリがうなずいた。
そのとき、皿の端から氷のスプーン型ブリッジがにゅうっと伸びてきた。
赤い粒子が触れた瞬間――一気に青く、冷えていく。
「うわっ、逆だ! 熱が“逃げてく”!」
《“冷たさ”とは、“熱がうばわれる”感覚。
冷たいものは熱を持っていくことで、まわりにその影響を与えるのです。》
リオたちは無言でその様子を見つめた。
スープの中で、熱が右へ、左へ、まるで感情の波のように流れていく。
《熱は、あげたり、もらったり。
まるで、だれかの気持ちみたいですね。》
ユリスの声が、ふわりと残った湯気に溶けていく。
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