第5話 赤い卵

「おじいちゃん、この赤い卵…なぁに?」

「またか…かみなりはこの巻物が大好きだな…」

私は小さい頃、変なものがたくさん描かれたじーちゃんの巻物が大好きで、毎日の様に見ていた。

「この卵…宝石?るびぃとか?」

「かみなり、それは宝石ではない…もっと不気味なものだ」

「ぶきみ?」

「そうだ…いいか?かみなり。これは「神の心臓」と呼ばれる人工的に作られた危ないものだ。

誤ってそれに触れたとすれば…一瞬で命を落としてしまう。

血の関係で死なないものもいるがな」

「死ななかったらどうなるの?」

「死ななかったらだな……不思議な出来事に周りごと巻き込まれ、一気に死亡率が上がるんだ」

「ねぇ、じーちゃん。そのかみの心臓はなんで作られたの?」

「それは、魂を殺さないためだ。知ってたか?

この国の神は死んだら交代する。でも、その神の体は死んでも、魂は生きてる。

だから魂だけを取り除きこうやって、卵みたいなのにして、保管するんだ。

そして、ちょうどいい人間を見つけて、体に埋め込む。

そうやって、神の魂は体を移し替えてさまよっているんだ」

「へー…怖いね…

私、もし綺麗だと思っても、これには絶対触らない!」

「そうだな…神のことには関わらないほうがいいと昔から言うもんな…

偉いぞかみなり」

その話を聞いてから、卵料理が食べられなくなるほど卵が怖くなった。

そんなトラウマを今思い出した。

そう…きっと…

今からハレルちゃんは「死ぬ」んだ。


そうかみなりは考え目を瞑ったが…

「えっ…?なにこれ。お腹が…治ってる!髪も白い!可愛い!」

 ハレルは死ななかった。

 むしろ、先ほどよりも元気になっていて、白い髪を興味津々になでている。

かみなりは、混乱した。

―どうして…?だって…死んじゃうんじゃ…

あっ…そう言えば


「血の関係でならない者もいるがな」


血の関係?もしかして

それで今ハレルちゃんは平気でいられるの?

どうゆうこと。

 かみなりがそう頭をひねると男は喜ばしそうにハレルの腕を強くつかんだ。

「な、何?」ハレルがそう嫌そうに言うと彼は

「では…成功しましたので…帰りましょう」と不気味に笑い強く腕を引っ張った。

「い、痛い…それに帰るって…どこに?私は今から神野高校に行くの!やめてっ!」そう騒いで彼の手を振りほどこうと努力したが、彼は手を離さず、むしろ力を強めていった。

「暴れてはいけませんよ。僕も皆さんも困リますからね。

あなたはもう「神様」なのですから…殺せないのです」

 それを聞いたハレルは、思いっきり男を威嚇し、猫のように睨見つける。

「私はこんな変な卵の力で神になるつもりはない!

ていうか…勝手に神にされてたまるか!

私は、自分の力で神になるの。こんなの神じゃない!それに私がなりたいのは…みんなに信仰される神さまじゃなくてみんなをたすけて守るかっこいい神さま!

そう…戦う神様になるの。

別に世界の神とかどっかの教会の神になりたいわけじゃないの!

かっこいい害神と戦う神様になりたいの!」

そう怒鳴ると男は少し間を置いた。そして、そのすぐ後。腹を抱えて笑う。

「あはははははははははははははははははは!

かっこいい?戦う神が?はっ…あはははははは!

あれは、無様にただただ殺されていく神の子じゃないか。神だなんてそんな名前つけるようなもんじゃねぇよ。

それに、あいつらは神の心臓も作られねぇゴミだ。

自分の自己満足のために人間を助けやがって。きれいごと並べて人助けてんじゃねぇよってはなしだ」

「そんなんじゃない!戦う神様はとってもかっこいいんだよ!

私が憧れた神様なんだから!バカにしないで!

それに…なに?神の心臓って…心臓とったらみんな死んじゃうんだよ!心臓を取っちゃうなんて酷いよ。

多分、あなた、私より馬鹿だよ!」ハレルは彼に対しとても失礼な言葉をぶつけた。

「あれっ…ご存知ないですか?神の心臓。では短く説明しましょう。

この国…いやっ、この世界には、信仰される、神様がいますよね。

神の心臓はその神が死んだ時に作られます。そして、その死んだ神の魂…力をここに封じ保管するのです。

そこから何年か待ち、ぴったりな人を探すのです。

神の魂、力を入れる器を…」

「えっ!じゃあ…私の中に…神さまの力と魂が入ってるって事」

「そのとおりです。さぁ、ハレル様…帰りますよ。

まだ試したいことは残っています…さぁ…」

 そう言い、男はハレルの腕を木の枝の様に扱い、折る勢いで強くにぎる。

「痛っ!…やだ!はなして!私は…神野高校にいって神様になるの!」

 喉が潰れる様な声を出しながらハレルは抵抗する。それを男は面倒くさがる様にため息をつき、懐からナイフを出す。

鋭く光るナイフの先をハレルの腕へと突きつける。

「なぁ、いい加減黙れよ

こっちはガキの面倒みんのに疲れたんだよ。お前が神になるんだかならないんだか知らねえが、お前は俺たちの物なだ。

いいから静かに従えよ。これ以上騒ぐってんなら…腕、切り落とすぞ。

お前は生きてるだけでいいんだからな」

 男は別人の様に口調を変え、ハレルに恐怖を教える。一体この男は何十人格なのだろうか。

そんな男は操られた様にナイフを振り上げる。

「…っ!」ハレルは思わず目を伏せ、体全体を力ませる。

しかし




「――スパンっ…」

 突然、ナイフが宙へと舞い上がる。冷たいコンクリートへと刃物は落ちた。

 男は、目を泳がせ、手を震わせる。

「どうして……お前。早すぎだろ……」

 取り乱す彼が目を向けた先には死神の様な鎌を持つ一人の少女、いやっ女性が堂々と立っていた。

 彼女はとても美しく、小柄で童顔だった。

真っ白い髪の毛先だけ緑に染まっていて、目はオレンジの綺麗な目を持ち、物語に出てくる妖精の様。

しかし、その容姿とは裏腹に、白い白衣には返り血がついていて、体全体から強いオーラが滲み出ていた。

美しい綺麗な手で大きい鎌を握るその姿は、まるで死神。

 そんな彼女は口角を上に上げ、落ち着いた品のある声で男に話しかける。

「やっと追いついたよ〜。君、ずいぶんと逃げ足が速いようだね。

ここまで来るまでに、結構時間使っちゃった〜。

そのせいで……もう手遅れになってしまった……

さぁ、責任は取ってくれるのかな〜?


クソ野郎?」

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