お天気さん
兎太郎
どうして憧れてしまったのだろうか
「っ…!やめて…来ないで!」
「こ、殺されるよ…どうしよう」
小さい頃、私達は殺されそうになった。暗い神社の鳥居の前で。
私達が入ったその神社は、昔から絶対に入ってはいけないと…親から口酸っぱく言われていた不気味な神社だ。
しかし、私達は神社に何か秘密があるのでは?と興味が湧き、お遊び半分でそこに入ってしまった。
そしたらこのざまだ。少々私達は、大人の言葉をナメていたのかもしれない。
今は本当に反省している。この時は、ひたすら誰かに
「ごめんなさい。もうこんな事しません!」って心の中で謝っていた記憶がある。
しかし…あの時は本当に恐ろしかった。今も思い出すだけで怖いが…あの時は本物の恐怖というものを経験した気がする。
えっ…誰に殺されそうになったのかって?
それは、この世界で皆に嫌われ、人々を食べ続け、永遠に増え続ける「バケモノ」
これを、皆んなは
「害神」
と呼ぶ。
私はこの時、初めて害神を生で見た。動画も写真も見たことがあったが…やはりリアルはものすごく気持ちが悪い。見るだけで吐き気がする。
特に、笑ったお面と、黒く、テカテカした大きな体がゴキブリのようだ。
そんなバケモノは私達に近づき、大きな手を上にあげる。
この時。言われなくても分かった。私達は殺されるのだと。
そんな時、親戚の輝が涙目で私の事を見た。
「私…死ぬのかな?嫌だな…こんなところで…死にたくないよ」
「死ぬんだよ…」
この時の私にはこれくらいしか返事の言葉が思いつかなかった。
輝の言う通り、人けのない、この暗い神社に取り残されて、静かに私達は死ぬのだ。
立入禁止のところに入った罰として…
こんな事しなければよかったと…私は後悔ばかりが頭の中をぐるぐるぐるぐると巡った。
私の後悔は一つだけではない。他にも、死ぬ間際にたくさん思った。
学校でいじめられた時、言い返せばよかったとか。
もっと人気者になって友達が欲しかったとか。
こんな弱い自分を抜け出したかったとか。
そんな後悔ばかりがうろつき…とうとう、あの世に行くときが来てしまった…
「ヴォーオオオ!」
害神は大きな口を開け、私達に突進してくる。
もう終わりだ、私達は無残に、噛み潰されて、食われて死ぬんだ。
しかし、どうゆうわけか私達は食われなかった。痛みも感じない。
目を開き前を見てみると害神の手が、無かった。いやっ…切り落とされていた。
一体何が起こったのか…誰が助けてくれたのか
すると…突然。勇ましい、勇敢な声が私達に喋りかけた。
「あれあれ?おチビちゃん
ここは…立入禁止なんじゃないんだっけ?
ルールを破るのはいけないな〜学校で教わらなかったか?
まぁ、今はいいとして…」
彼女達は勇敢な姿勢を、怖がる事なく、恐ろしい害神へと向る。
勇敢な三人の戦士は、それぞれの武器を害神へ向け、
「お前を倒す!」
「殺します」
「倒しちゃうよ〜!」
とバラバラな決め台詞を叫んだ。
そして、その後は…本当に凄かった。
言葉では表すことができないくらい、三人は強くてかっこよくて、速かった。
動くたびに、星が舞っているようで、武器を振るう姿はまるで勇者。先ほどまで私達を襲っていた害神が今、あの人達に殺されそうになっている。
何だか不思議だ。
心が熱い。
もっと、この戦いを見ていたい。
かっこいい。
綺麗。
私は今さっき、死にそうになっていたくせにそのかっこいい戦闘に夢中になった。
「ヴォー…」
害神がうめき声を上げながら地面に倒れた。
周りには、害神の血が飛び散っていて、小さい私達からしたら刺激の強い光景だが…
今はなんだか、少しホッとする。私は死んでない。まだ、やり直せる。
そんな、生きる喜びを感じた私に、彼女は手を差し伸べた。
あったかい、勇ましい、きれいな手を。
「だいじょうぶか?
ケガは…なさそうだな。
さぁ、立とう」
私は彼女の力に引っ張られながら立ち上がる。強そうな彼女は私に優しい笑顔を向け、頭に手を置いた。
「もう安心しろ。害神はもう倒した。あいつはもう二度と起き上がらない。だからだいじょうぶだ。
なんてったって私達「神」が倒したのだからな!」
雲に隠れていた太陽がひょっこりと顔を出し、私達を照らす。今まで暗かった鳥居も本堂も、太陽の光に照らされキラキラと光る。
この時、私は先ほど害神に殺されそうになっていた、なんて…とっくのとおに忘れていた。
今は彼女の勇ましく美しい、その「神」のすべてに興味がそそられた。
「神…」
「神」それは、なりたい職業ランキングで毎年一位をキープする、すごく人気のある職業。
どことなくやってくる、人類の敵、害神を魔法で倒すこの世界の英雄であり、ヒーローであり、魔法少女でもあり、戦士でもある。そんな、私達人類の憧れの的だ。
そんな「神」を目指す者達は、神になるために「神野高校」と呼ばれる場所に通う。害神を殺す技術や知識、神のあり方、普通に勉強などなどを学ぶことができる。
しかし、いくら勉強しても、肉体を鍛えても神になれないものはたくさんいる。それは、才能や努力…いやっ、生まれる以前の問題だろう。
この世界には魔法の使える「神の子」と何も使えない「人間」がいる。
私も含める「神の子」は、努力と才能次第で、神になれる可能性はゼロではないが…
「人間」はほぼゼロだ。別に差別したいわけじゃないが、人間は魔法が使えず、私たちと比べると身体能力も低い。ありとあらゆる部分で人間は私たちより衰えている。
でも、これは人間以外の私達にも言えることだ。
実際神を目指すということは、死ぬ確率が高くなるということと同じなのだ。
害神はバケモノ、いくら戦う姿がかっこよくても、実際に現実を見てみると、辛いことや悲しいこと、大変な事がそれには詰まっている。
そんな事、分かっていた。この道は険しく、危険で。
私には慣れっこ無いって…そんなのとっくの昔に分っていた―はずなのに…
何で私は
「私…神になりたい!」
憧れてしまったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます