傷もどき、怪談たらず

酢豆腐

カードバトラー

 馴染みの公園があり、小学校のすぐ隣なので高学年になってもしばしば立ち寄っていた。

 その日、1人でいたのはどうしてだったのか。待ち合わせならそのあと友達が来たはずだがそんな記憶はない。


 夕まぐれ、見知らぬ男の子に声をかけられた。

 6年生か中学生くらい、少し年上に見えた。

 当時人気の出始めたカードゲームの名前を挙げ、一戦まじえないかと言う。友達の家で触ったことがあってルールは把握しているが、自分自身は持っていなかった。

 デッキを貸してやると言うので、それならと勝負を受けた。


 密集して生えたコンクリートの足場、といった遊具があり(他には見たことのない妙な遊具だった)、それがちょうど良い高さなので盤面とした。

 ゲームの運びは覚えていない。楽しかったと思う。戦闘用のモンスターカードの数字を比べ合い、補助カードで状況を逆転する。その頃のゲームだから、そんなに複雑なものではない。

 楽しかったのだから、それなり接戦だったのではないか。しかし「まぁこれは負けるだろうな」という予感はあった。決して、自分が勝ちそうになったということはない。


 変わった発言はなかった。「ん」と、こともなげに彼は手札を切った。

 コンクリの上に投げ出されたそれが、明らかに手作りのものだった。つまり、画用紙を何枚か貼り重ねて作った工作物。

 がたがたの枠線の中に、気持ちの悪いモンスターの絵が描かれていた。下手な、手描きのイラストだ。迫り出した頭に何か特徴があったはずだが、黒ずんだ胴体の輪郭のくびれだけがやたら目に焼きついている。

 でたらめな数値が書いてあり、例えばそれなりに強いモンスターカードの攻撃力を5とするなら2000くらいの数だった。

 しかも男の子の説明では、そのカードは出すだけで相手の全てのモンスターを破壊するらしかった。


「はい、俺の、勝ちーっ」


 彼は、目をむいて、笑った。

 すべて無茶苦茶だったけれど、しかし従う以外の選択肢も思いつかなかった(今でもどう対応すれば良かったのかわからない)。


 そんなわけで私は負けてしまい、彼はさっさとカードを片付けて去って行った。以降会うことはなかったが――どこのタイミングで名乗ったのか彼の姓名は今も覚えている。私と同姓(別に珍しい苗字ではないのでそれは不思議でもなんでもない)で、それがためか殊更に名前も記憶してしまった。カードバトラーた○○り、という漫画的な名前で呼び起こして、この出来事の気味悪さを紛らわせている。

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