第4話 困ったさくら



「もう暗いので家まで送ってもらえませんか?よく痴漢に遭うので怖くて……」


 そう言われて断る訳にも行かずさくらの家に到着したが、確かに物騒な場所だ。こんな緑豊かな郊外に、それも途方もない広い敷地と大豪邸。若い娘が一人で住むには実に物騒な家だ。結局元工務店だった自宅がそのまま放置されているのだ。


 あいにく会社は隣棟に有るので家は売らずに済んだ。


「ねえ。少しで良いので家に上がって行かない?」


「イヤ僕は明日試合がありますから……」


 ここで逃がしたらもう二度と会ってもらえない気がしたさくらは、隼人に抱きついて言った。そして……自分の今の状況を打ち明けた。


「ぅうううっぅ( ノД`)シクシク…実は…父は立花工務店を経営していたけど、建設業界の人材不足は、深刻な問題で職人の高齢化が進み、若い世代の人員を確保できても、育成にコストが掛けられず、離職してしまうことも多くて、結局M&Aによる対価と引き換えに会社や事業を第三者に譲り渡すことで決着したのよ」


「こんな夕方だというのに、ご両親は今どこに居るのさ?」


「ママは自分勝手な人で、行方知れずになっていて……どうせ仕事でしょう。離婚してから一度も会っていないのよ。あんなママだからパパも仕事に身が入らなかったのよきっと。それでも……パパは時々帰って来てくれるけど。ねえ行かないで!私この家で1人でいるの怖いの」


 隼人はさくらには複雑な家庭環境があったのだと可哀そうになった。


「じゃあ少しだけお邪魔します」

 家の中はだだっ広く、社員たちが食事をする休憩スペースも設けられていた。


「私何か作ります。夕飯」


「いいよ。そんなことしなくても。僕すぐに帰るから」


「でも……じゃあ何か注文しちゃおうか?」


「そうだね!僕がお金出すよ。君んちお父さんは無職だし……お母さん居ないんでしょう?」


「本当に!嬉しい」

 隼人は別に稼いでいる訳でもないが、甘えてくれる可愛いさくらに何か……自分が優位に立ち庇護の立場になったような思いで、この子を守ってやりたいという思いに駆られた。


 注文したピザを食べ満足した隼人は、もうこれ以上この家にはいられないと思い帰ろうとした。


 するとさくらは言った。


「私の夢は愛する人と結婚することなの。私のことがきっと理解できなくてとんでもない女と思っているかも知れないわね。私ママで散々苦労させられたのよ。ママはねパパと3度目の結婚だったわ。私を18歳で産んで現在37歳。ママは確かに公認会計士の資格も持っていて、一流大学を卒業したエリートかも知れないけど、生活能力もあるので自由奔放なのよ。最初の結婚相手は同じ高校の私の正真正銘のパパ。結婚したのだが、パパが単身赴任中に女がいた事がバレて即離婚となったの。そして2年後に結婚した相手はママが勤めていた会社の同僚だったの。現在日本で大手監査法人に位置付けられるのは4社あるのよ、通称「BIG4」と称される、その1つに今も勤務してバリバリで働いているけど、その男ともやはり女が原因で別れたの。そして今度のパパが立花工務店の社長だったパパ。この男は女じゃないけど家に帰って来なくなったのよ」


「それだけ男に避けられるって事はママに何か問題があるんじゃ……?」


「そう思うでしょう。ママ凄く美人で仕事もできるパーフェクト女性よ。そんなことある訳ないじゃないの。只パパたちに聞いたところによると、パーフェクト過ぎて家に帰って安らげないって言うのよね。私ってママにそっくりだし男の人に愛されない人生は絶対にイヤなのよ。だからママとは全く正反対の女になりたいの。だから……私を抱いて💓💖💝」


 そういうと裸になって隼人に抱き付いた。隼人は友達の彼女を奪うことなど絶対にできない。小さい頃からいつも助けてもらってばかりの健一の大切な彼女と、そのような関係になってしまったらもうおしまいだ。


「ダメだよ。裏切ることなど絶対にできない。健一は大切な友達だから……」


「私の話を聞いて。私は健一が好きだったけれど、それ以上に隼人のことが好きになってしまったの。私はもう健一とは会う気持ちがないの。隼人にビビッと来てしまったの。隼人は私のこと嫌い?」


「そんなことはないけど……だけど……」


 するとさくらが隼人にキスをした。

「もう僕帰る💢💢💢今日初めて2人で会って、それも……健一のことで相談があるっていうから来たのに、どういうつもりさ。健一が可哀そうじゃないか!」


「じゃあ好きではなくなった人と付き合わなければいけないってこと?」


「ともかく僕は帰る!」


「帰らないで!」

 ここまで強引に責められて、美しい裸体を見せられキスまでされては血気盛んな若者には酷だ。メロメロになってしまった隼人は、とうとう我慢できなくなり関係を結んでしまった。

 

 一方のさくらは何故このような強硬手段に出なければいけなかったのか?


 さくらはママから振り込まれるお金で生活は十分にできるが、パパとママが出て行き寂しくて仕方なかった。ママはガチガチのキャリアウーマンで男の気持ちが何も分かっていない。


 要は隙が無い。だから夫婦関係もないに等しいが、寂しがり屋で家に帰って明かりがついているのが、何よりほっとするタイプで、それで結婚を繰り返していた。だからエッチがしたいという感覚がない。また帰ってからも書類に目を通すなど、やることが山ほどあって終わったら疲れて眠るそんな女性だった。


 そんな時に3番目パパが離婚した後家に帰って来て言った。それはさくらが聞いたからだ。


「ねえ。パパ。ママッてあれだけ美人でパーフェクトなのに、なんで揃いに揃ってパパたちが女作って出て行っちゃうの?」


「…………」


「何よ。意味ありげに、だんまりを決め込むなんて?」


「ぅうううん…実を言うと……もうさくらも大人になったから言うけど……きっちりしていて……夫婦だというのにエッチさせてくれないんだ。疲れたって言って……」


 こんな話を聞いたさくらは、男を虜にするにはエッチが全てだと思うようになってしまった。













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