第2話 サッカー試合
俺はあの日観たミュージカル「くるみ割り人形」の主人公クララ役女子のことが片時も頭から離れない。
一体あの日何が起こったというのか?
あれだけ鮮明に俺の心に刻まれているというのに、誰も知らないとはどういうこと?
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中国語に「陽炎」という単語があり、それが日本では「かげろう」に当たるとして、「陽炎」を「かげろう」と読むようになった。そして……後に日本語では「かげろう」を「陽炎」と書くようになった。
万葉集の歌人、柿本人麻呂の歌には「陽炎」の様子を「今さらに雪降らめやもかぎろひの燃ゆる春へとなりにしものを」「東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ」と詠んだ歌がある。この「かぎろひ」の「かぎろ」は「きらきらひかる」といった意味で「ひ」はそのまま「火」をさしているので、「ゆらゆらとゆれてひかる炎」を「陽炎」に転じていったものとされる。
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俺、菊間隼人は就職戦線真っ只中の大事な時期11月だというのに、何故このようなことで時間を割かなくてはならないのか?
実は…俺は現在早稲田大学スポーツ科学部4年生で、10月に埼玉市役所に就職が決まっていた。
だから……のんびり女のことに集中できているということなのだろうか?
実は…俺はサッカー少年で小中高とサッカー漬けの人生を送っていたが、思わぬ事件が起きた。
期待に胸を膨らませてサッカーの強豪校早稲田大学に、スポーツ特待生で入学したが、なんと運の悪いことに靱帯を損傷して、一時的にはプレーに復帰できたが、疼痛(とうつう)が強く、とうとうプレーを継続できなくなってしまった。
一時は人生の目標を失い生きる希望を失い部屋に引きこもっていたが、母が心配して人生の教訓本を渡してくれ、それを読み終え公務員試験に向けての猛勉強を始めた。
親とは本当にありがたい存在だ。俺はきっと母がその本を渡してくれなかったら、今も引きこもりを続けていたに違いない。
一流のサッカー選手にはなれなかったが、平凡な人生に身を委ねるのも悪くない。今までは厳しい訓練に耐えながら、選手の椅子の取り合いで必死に食らいついて来たが、公務員試験に合格したことで穏やかな毎日が流れている。
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それにしても、揃いに揃って藤芸術大学の学園祭で、3年前の10月25日に上演されたミュージカル「くるみ割り人形」を知らないとはどういうことなのか?
皆して口裏を合わせて俺を騙そうとしているのだろうか?
それと言うことは何か……事件が起きて、その日のことを言っては不味いので、皆で口裏を合わせているということなのだろうか?
俺は何故あの日最強の強豪校明治大学との戦いを数日後に控えていながら、藤芸術大学に足を運んだのだろうか?
根っからのスポーツお宅で1年生だというのに最強校との試合に、この俺が抜擢されたことで面白く思わない選手もいたに違いない。
俺が出場の切符を手にしたということは、昨日まで選手として活躍していた誰かが、外され俺が選ばれたということだ。
僅か1年生で選手に抜擢されたということは、計り知れない嫉妬の対象となったことだけは紛れもない事実だ。ましてや明治大学と言えば最強校。そんな試合に若干1年生の俺が起用されて、プライドはズタズタだったに違いない。
本来ならば俺は自分の才能を理解してもらえた喜びで一杯だった筈なのに、それがどういうわけか俺はあの日いらだって、健一と藤芸術大学の学園祭に向かったのだ。
そこで…ミュージカル「くるみ割り人形」を観た。
あの日何かが起こったことだけは確実だが、それが一体何なのか、皆目見当がつかない。第一そうでなければ会う人会う人に藤芸術大学で上演されたミュージカル「くるみ割り人形」を知らないと言われるわけがない。
何かを故意に隠している?
俺はあの日大学は休校だったが、3日後に迫った試合のために選手は駆り出され、出場できる喜びで有頂天になっていた。朝練でユニホームに着替えグラウンドで夢中でボールを追っていた。
それなのに俺は昼食の後の午後から、健一と浮かぬ顔で藤芸術大学に向かった。
あの時何かが起きたのだ。
一体……あの日何が起きたのか?
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