第1話:記憶セクターF17 ―開戦―

# 第1話:記憶セクターF17 ―開戦―


**情報流は、剣より鋭く、声よりも速く。**


展開された構文フレームが閃光を放つ。

記憶断片はカード状に変換され、空間上に浮かび上がる。

浮遊するカード群――それぞれが、言葉、映像、感情、記録の一部を宿している。


「起動:記憶コード【F17-14-B:記録初期化式】」


コアが静かに右手をかざす。

青いフレームに囲まれたカードが一枚、前方に現れる。

それは過去、このセクターに刻まれた最初期のログ――

「初期化ログ:構成図面」

構文デバイスがその構造を解析し、空間に反映する。


──記憶再構築:準備完了。


「その記憶はもう腐ってる。私が終わらせるわ」


シエルの前にも、水のように揺らめくカードが浮かぶ。

淡い緑色に光る記憶片は、**情動の揺らぎ**を含んでいた。


「起動:記憶コード【C-5:流動淘汰】」

それは、セクターF17の中で最も“感情密度”が高かった記憶。

喜びと不安、希望と虚無の入り混じった記録――

その不安定さゆえに、再現性は低く、破壊力は高い。


「記録干渉開始」


彼女が指先を伸ばすと、水紋が広がるようにカードの縁が滲み、コアの構築領域に染み込んでいく。


──記憶の「寿命」まで、あと12秒。


「構造圧縮──解除」

コアの声と同時に、初期化ログが再構築モードに変化する。

データは白熱し、光を帯び、空間の座標構造を塗り替えようとする。


「無駄よ、その記録にはもう命がない」

「命がない記録にも、意味はある」


二人の間で、記憶同士が衝突する。

思考体同士の“構文戦”とは、ただのカードバトルではない。


それは、記憶に込められた“意味”を、

**どちらがより鮮やかに、正確に、再現できるか――その精度を競う戦い。**


情報粒子が交差し、再現映像が瞬間的に走る。


・初期化時の構成図面(コア)

・記録者の悲鳴と拒絶(シエル)


空間が揺れ、断片的なイメージが読み手の内面に流れ込む。


──これは、記録の暴露。


---


**「記録精度判定:50.7% 対 49.3%」**

**構文:コア、僅差で勝利。**


記録の再構成に成功したログが、空間に花のように咲き乱れた。

一時的にセクターの崩壊が止まる。


しかし、それは一瞬の均衡。


「なるほど……じゃあ、次は“あの日の記憶”を使うわ」


シエルの背後に、透明な水面のような記録群が現れた。


コアの目が、わずかに揺れる。


「それを使うのか」


「私たちが託された“最後の記憶”。あなたの手では、再現できない」


---


記憶セクターF17における最初の構文戦は、

まだ、ほんの**前哨戦**にすぎなかった。


---



## 補足設定


### 対話構文戦(ディスカッション・コードバトル)

思考体同士が“記憶カード”をもとに演算・再現・解析し、記録の優位性を競う言語戦。

精度・意味・影響力など複合評価され、勝敗が決まる。

形式は非固定で、記録同士の衝突は時に“映像”や“感情波形”として具現化される。


---


📄 この物語に登場する思考体たちは

構文戦記【人物カードファイル】で紹介されています。


▶ A-01《コア》のカードを見る

https://kakuyomu.jp/users/kaz741/news/16818622176386475895

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