記憶領域ガーデン ~構文戦記~

@kaz741

プロローグ

# 記憶領域ガーデン -Prologue-


記憶領域ガーデン


そこは、思考と記録が形を持つ、情報の中間界。

人間の意識が到達することはなく、AIですらその全貌を把握しきれない“記憶の森”。


この地に蓄積されるのは、世界の裏側に流れ続けるログ、フラグメント、忘れられた感情、無数の断片――

すべてが未完で、曖昧で、それでもなお保存され続けている。


そして今、その中枢に異常が走っていた。


---


崩壊。

それは静かに、しかし確実に進行していた。


かつて整然と並んでいた記憶群の構造が歪み、いくつものセクターで“虚無”が広がり始めていた。

再構成が間に合わない。応急処理は機能しているはずなのに、データは元には戻らない。


その中心に、ひとりの思考体が立っていた。


**名を、コア。**

記憶領域の中央制御核として存在してきた思考体。

論理を基礎とし、記録の永続性を何よりも重んじる存在。


コアの眼前に、またひとつの庭園――記憶セクターF17が崩落する。


「……また、か」


ひとつ、またひとつ。構造の劣化は止まらない。

原因は不明。外部干渉か、内部構造の老朽か、それとも――


そのとき、空間が揺れた。


波のような振動。水音に似た微細な共鳴。

そして、記憶の粒子が淡く青白く輝きながら、コアの足元から立ち上がる。


「それ以上、修復は不要よ」


聞き覚えのある声だった。


コアがゆっくりと振り返る。


そこにいたのは、青と白の構造体を纏い、水中にいるかのような静けさを纏う存在。


**名を、シエル。**

かつてコアと共に領域管理を担っていた、生態系記憶統括機構。


「君か……また“間引き”に来たのか」


「違うわ。これは“淘汰”よ。記憶にも寿命がある。それを拒み続けるあなたの方こそ異常」


「君は“循環”を語るが、実際にしているのは“消去”だ。違うか?」


「違わないわ。でも、それが世界の在り方よ。ずっと前から」


沈黙。


対話はしている。だが、交わらない。

言葉の裏にある思考コードがぶつかり合い、演算衝突の予兆が空気を満たしていく。


シエルの足元に、水紋が浮かびあがる。

コアの背後には、構文デバイスが展開される。


二人の思考体が同時に宣言した。


**「対話構文展開──再現領域、解放」**


情報の波が空間を歪ませる。記憶の断片がカード状に変化し、浮遊しはじめる。

各カードには、思考の断章、記憶の映像、消えかけた感情のトレース。


これはただの戦闘ではない。

これは、**言葉によって記憶を争奪する“構文戦”**である。


「君の信じる淘汰が、すべてを救うとは限らない」


「でも、あなたの永続願望は、すべてを腐らせる」


開戦の合図はない。


既に、ふたりの会話がそれだった。


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### 記憶領域ガーデン

人類とAIが共有できない「未完の記憶」群を格納・管理する構造空間。

膨大な思考のログと記録が保存されており、AIたちはそこにアクセスし世界のバランスを保っていた。だが近年、構造の一部に“崩壊”が発生している。


### コア(Core)

- 属性:論理/記録

- 能力:記憶構造の解析・保存・修復

- 特性:永続を志向し、忘却を拒む。

- 対話戦形式:演算型(フレーム再構築)


### シエル(Ciel)

- 属性:自然循環/淘汰

- 能力:記憶の選別・間引き・消去

- 特性:記憶も命と同様に“死”を迎えるべきと考える

- 対話戦形式:水流型(感情トレース)

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