閑話 親友達の初恋~その2~

「こんにちは!」


 目の前にいる赤毛の女の子は,元気に挨拶した。


「こんにちは,みっちゃん」

「こんにちは」

 あたしに続いて隣に居る拓也も挨拶した。

 拓也は少し腰を屈めて,みっちゃんの目線に合わせている。

 さすが自慢の彼氏だ。


「みっちゃんは,今日もお母さんのお手伝い?」

 みっちゃんという子は,いつもベビーカーを押していた。

「うん!おかあさん,おなかの中にあかちゃんがいるから,おさんぽできないの!」

「そうなんだ。代わりにみっちゃんが,赤ちゃんのお散歩してるの?」

「そうなの!でもあんまりとおくにいくとあぶないから,そこのこうえんまでだけど・・・」

「お姉ちゃん達も,一緒にお散歩していい?」

「・・・いいけど,おねえちゃんたち,『でえと』してるんじゃないの?」

「今日はね,みっちゃんとお話ししたくてきたんだよ?」

「そうなの?でもあたし,おもしろいおはなしできないよ?ともだちのかえでちゃんは,おはなし,とてもじょうずだけど・・・」

「ううん。みっちゃんのお家のお話とか,学校のお話とか聞きたいな?」

「うん・・・」


「よし!じゃあお兄さんがベビーッカーを押してやる!みっちゃんは仁美お姉ちゃんと手え繋いでやれ!」

「おねえちゃん,ひとみちゃんていうの?」

「そうよ。こっちのおにいちゃんは拓也君。よろくね!」

「うん!ひとみおねえちゃん,たくやおにいちゃん!」


 ひまわりのような笑顔見せる,みっちゃん。

 あたしは,その小さな手を取り,公園までゆっくりと歩き始めた。

 少し遅れて拓也がベビーカーを押している。


 何だか未来の予行演習みたい。


 あたしは,目的を忘れそうになっていた。




「みっちゃんは,お名前なんて言うの?」

 我ながら変な質問だ。

「あたし?『みつり』っていうの!」

「みつりちゃんか・・・。ひょっとして,みつりの『みつ』は『光』って書くの?」

「よくわかったね!『みつ』は『光』ってかいて,『り』は『里』ってかくんだって!このまえがっこうでならったけど,あたし,かんじにがてだかられんしゅうちゅう!」

「そうなんだ。偉いね!『光里』ちゃんか・・・」


 間違いない。

 『畑前光彦』さんの関係者だ。


 拓也も気付いたようで,目を合わせると,大きく頷いた。


「・・・ひょっとして,みっちゃんのお父さんも『光』って文字入ってる?」


「よくわかったね!おかあさんいがいは,みんな『光』ってもじがはいってるよ!?」

「そう・・・」


「・・・この子も『光』が入ってるのか?」

 拓也が,ベビーカーの赤ちゃんを指して聞いた。

「うん!『みつお』っていうんだ!おかあさんのおなかにいるあかちゃんたちも,『光』っていうじをつけるっていってた!おとうさんが!」

「赤ちゃん『たち』?」

「おかあさんのおなかにいるあかちゃんたち,ふたごなんだって!」

「ふたご・・・」

「父ちゃん,大変だな」

「どうして?」

「その・・・4人も子どもいると,お金とか大変だろ?」


 小さい子に何言い出すんだか!


「うーん,だいじょうぶだよ?」

「え?」

「うちはびんぼうだけど,おとうさん,まえよりおしごとたのしそうだし」

「前より?」

「うん。おとうさん,あたしがちいさいころは・・・,いまでもちいさいけど,むかしは『やくしょ』ではたらいてたんだって!」


 ああ,こんなに早くたどり着けた。


「むかしのことはおぼえてないけど,そのころのおとうさん,いつもくるしそうなかおしてた」


 やっぱり!


「いまは,ちょうきょりとらっく?のうんてんしゅさんだけど,とってもたのしそう」


「・・・ね,ねえ,みっちゃん」

「なあに?ひとみおねえちゃん」

「みっちゃんは,お引っ越ししたことある?」

「あるよ?あたしはよくおぼえてないけど・・・」

「そ,そう・・・」


 震えが止まらない。

 拓也も心配そうに見ている。

 私は腰を下ろして,みっちゃんの目線に合わせる。




「・・・みっちゃんの,光里ちゃんの,お父さんとお母さんの,お名前は何て言うの?」




「おとうさんは『みつひこ』!おかあさんは『さだこ』っていうんだよ!」




 見つかった。


 桜さんが,どうしても見つけられなかった人を,見つけられた。




「・・・どうして,ひとみおねえちゃん,ないてるの?」


「え?あたし,泣いてる?」

「うん。ないてるよ?たくやおにいちゃんが,なかせたの?」

「えっ!?俺は何もしてないぞ!?」

「拓也お兄ちゃんが泣かせたんじゃないの。嬉しくて泣いてるの」

「うれしいとなくの?あたし,ころんだときしかないたことないよ?」

「そうだね。痛くても泣くね・・・」

「みつおは,おなかすいたときと,うんちのときになくけど・・・」

「そうだね。赤ちゃんは泣くね」

「おおきくなると,うれしくてもなくの?」

「そうだね。大きくなると嬉しくても泣くの」


「なにがそんなにうれしいの?」

「・・・お友達を助けられるから,かな?」

「おともだち?」


 拓也が,その大きな手でわしゃわしゃとあたしの頭を撫でる。

 セットが乱れるからやめてくれ,といつもは言ってたけど,ホントはこの手の感触が大好きだ。


「・・・お友達じゃねえ。『親友』だ」

「しんゆう?」

「そうだね。とっても仲良しのお友達のことだね」

「あたしとかえでちゃんみたいなものかなあ・・・?」

「大きくなったら分かる。かえでちゃんだけじゃなくて,みっちゃんにもたくさん親友ができるよ」

「・・・うん。よくわかんないけど,わかった!」




 あたしは拓也に撫でられながら,みっちゃんの頭を撫でた。

 端から見れば変な光景だろう。


 でも,構わない。




 あたしは,あたしと拓也は,『親友』を助ける手がかりを見つけられたのだから。

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