閑話 桜真里花の初恋~その2~

 『浮いている』


 楢崎聡二というクラスメイトに対する私の第一印象だ。

 まどかもそうだったと聞いて,お腹を抱えて笑ってしまったけど。

 余所から来たせいもあるのか,友達はいないようだった。

 いつも一人でいるようだけど,それを苦にしているようでもなかった。

 身長も高く,顔もそこそこ整っていて,磨けばモテそうだなとは思った。

 何かを達観しているようで,同い年とは思えないほど落ち着いていた。

 正直,自分の好みのタイプではあるが,特に接点もなかった。


 あの時までは。


 まどかが彼に声を掛けたのは,本当に驚いた。

 どちらかというと引っ込み思案の彼女が,しかもあんなに大きな声で。

 でも。

 今までの疑問が一気に解けた。

 多分あの日,まどかは彼と何かあったんだろう。

 そう言えば最近,土曜の午後にまどかがオシャレをして出かけている,と本家のお手伝いさんに聞いたことがあった。

 そんなに長い時間家を空けてるわけではないと聞いて,親に黙ってデートしてる,とかではないとは思ってたけれど。


 この疑問も後日解消された。

 楢崎君は話してみると,存外面白い人だった。

 大川君や君島さんがグイグイいってるおかげもあったけれど。

 お菓子作りが趣味と聞いて,私までテンションが上がってしまった。

 ちょっと恥ずかしい。




 調理実習は彼の独壇場だった。

 手際が良い,なんてレベルじゃない。

 料理教室,いやテレビの料理番組を,生で視聴している気分になった。

 彼の作ってくれたイチゴクレープは,お店で食べたものより美味しかった。




 その翌日,4人で彼の働くカフェに行った。

 驚いた。

 自分の理想の男性像が,そこにいた。

 なるほど,まどかが連れてきたくなかったわけだ。

 そこで食べたチーズケーキとカフェオレのセットは衝撃的な美味しさだった。

 楢崎君が『まだまだ修行中』って言ってたのも納得がいった。




 それから彼とまどか,君島さんと大川君と5人で昼食を食べるようになった。

 今までまどか以外と友達らしい付き合いをしたことがなかったので,新鮮だったし心地よかった。

 楢崎君は調理実習の後,随分モテているようだ。

 だけども話せば話すほど,それは当然だと思うようになった。

 まどかのことがなければ,私は彼を好きになってただろう。




 勉強会の前日の土曜日のことだった。


 まどかの帰りが遅い,と本家のお手伝いさんから電話が来た。

 どうやら携帯の電源も切っているらしい。

 できっと,楢崎君のいるカフェにいるんだろうと思うと,不思議と心配はなかった。




 勉強会では驚かされることばかりだった。

 何だか二人の様子がおかしいと思って問い詰めたら。

『昨日,喧嘩した』

『仲直りはしない』

『もう謝らない』

 まどかから発せられる言葉は,私の理解を越えていた。


 あげくに『もっと仲良くなるために作りました』と言って,彼はガトーショコラをごちそうしてくれた。

 美味しかったけど。

 初めて飲んだアイスカフェラテも美味しかったけど。




 私の思考はグチャグチャになっていた。


 それは何より

 『聡二君』と

 まどかが彼を呼んだから。

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