余白のある日々

Rpen

第1話 月曜の朝と、ねこの目

月曜の朝は、音が少ない。

カーテンの隙間からこぼれる光が、部屋の空気を静かに揺らしている。


リビングに入ると、空気はまだひんやりとしている。いつものようにコーヒーメーカーをセットしながら、ふと視線を向けると、モカが窓辺で静かに身体を伸ばしているところだった。遼が近づくと、モカはゆったりとした動きで頭を彼の手に擦り寄せた。


「おはよう」


小さな声で挨拶をすると、モカは目を細めてシッポを1度だけ振った。それがいつもの朝の合図のように、遼の心を穏やかにする。


ラテの姿はない。妻が起きてくる頃になると、どこからともなく現れてくる。


遼はモカの餌を皿に入れ、少し離れた場所にラテの分も置いた。すると物陰で微かに気配が動いたように感じたが、遼はあえて振り向かず、静かにコーヒーを手に取った。


キッチンの窓越しに外を見る。雲ひとつない青空だった。季節が少しずつ移ろい、冷たい風の中に春の匂いが微かに混じっている気がする。


日常は静かで、安定している。そんな生活に特別な不満があるわけではない。けれど、心のどこかに、言葉にならない小さな隙間がある。


やがて妻が起きてきた。リビングに入ると、静かな朝が少しだけ動き出す。


「おはよう、今日は何かある?」


「特にないよ。いつも通り」


妻はそれ以上何も言わず、キッチンへ向かった。その足元を、待っていたようにラテがついていく。


遼はコーヒーを飲み干して立ち上がる。モカはもう一度窓辺で丸くなっている。


玄関で靴を履きながら、ふと背後のリビングを振り返った。妻とラテの気配、窓辺のモカ、そして変わらない風景がそこにある。


「行ってきます」


窓辺のモカが1度だけシッポを振った。それを見届けるとドアを静かに閉める。


外の空気は冷たくて心地よい。


今日も、いつもの月曜日が始まる。

でも、それはそれで、悪くない。

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