第7回目 あなたは誰? 〜“地の文”の視点の話〜

 小説を書くに当たり、『台詞』と『地の文(ナレーション、説明文)』が必要と言う事はご存知だと思いますが、今回は地の文についての考察です。


 まず、地の文に必須なものってなにかわかりますか。

 …3、…2、…1、ぽん。


 それは『視点』ですね。

 本日はその『視点』についてお話します。




【視点の基本分類】


 視点を書くにあたり、いつものツレに指南を仰ぎました。


「視点っていくつあるか知ってる?」


「一人称と三人称の2つじゃない?」


「残念!実は3つあるんだよね〜」


「……まさか、二人称?」


「恋文かホラーじゃない限り、あんまり出番ないけど、あるにはある」


 と、いうことで、本日もペンとノートを取り出し、書いた内容が以下のとおりとなりました。


 ◇


  ○MEMO 【視点の特徴と使い分け】○


 ○一人称視点

 主観的で内面に深く迫れるが、視野が狭い。

 例  : 「僕は〜」

 利点 : 感情の濃さや没入感が強い。

 制約 : 他人の内面は書けない。


 ○三人称限定視点

「彼」など1人の視点に限定。主人公の感じたことだけを書く。

 利点 : 地の文は客観的だが感情にも踏み込める。文章の自由度が高い。

 制約 : 他キャラの内面描写は避けるべき。


 ○三人称全知視点 (三人称客観視点)

 語り手が全員の内面や事実を知っている。

 利点 : 多視点で広範囲の情報を出せる。

 制約 : 視点移動が多いと語りの芯がぶれやすく、感情移入が薄くなる。


 ◇



「へぇ。『一人称』は地の文に『私』とか入れて、『三人称限定』は、三人称で誰かにしぼって書くのか」


「そうすれば、主人公が誰かは、わかりやすいよ」


「そして、『三人称全知』だと、複数の心理が書けるんだね」


「その場合、視点の揺れが起こりやすいけどね」


「視点の揺れって?」


「その前に、まずは使いこなす練習ね」


 と、取り出されたのは、以下の文でした。




 ◇◆◇《LET'S TRY》◇◆◇


「じゃあ、次の文を『視点を変えながら』書き直してみようか」


 といわれ、小一時間ほど頑張った〈まとめ〉を書いておきますね。


 ────【原文】────

 息が途切れ、話がまとまらない。

 彼は息苦しさの中で、

「……もう迷惑はかけられない」

 やっとの思いで、それだけを告げることができた。

 ────────────



 ◇◆◇ まずは、一人称視点での書き換えです。


「『僕は』に置き換えればいいのよね」


「そんなんだから、あんたのは台本って言われてんのよ。もっと表現できるんだからね」


 叱咤されながら、まとめたものがこちら。


 ◇


 ────


【 一人称視点 】



 ❶ 主語の変更(彼 → 僕)


 まず当然、「彼」という三人称を「僕」に変えます。


 ❷ 客観描写 → 主観描写への書き換え

  『本人の体験』として描写し直す


 たとえば:

「息が途切れ、話がまとまらない。」 

 →「息が続かない。うまく言葉が出てこない。」


 ❸ 心情の内言化


 一人称では『心の声や迷い、決意』がそのまま表現できます。


 心情:

 →『……もう迷惑はかけられない』。それだけが、どうしても言いたかった。



 ────【改訂文】────


 息が続かない。うまく言葉が出てこない。

 胸が締めつけられるように苦しくて、頭も回らなかった。

 それでも、どうしても言わなければと思った。

「……もう迷惑はかけられない」

 声になったのは、それだけだった。


 ────────────

 これをまとめると


【利点】感情の濃さ、没入感、語り手の個性が活きる


【制約】他人(その他)の内面は書けない


 ということになります。ほおぉ。



 ◇


「一人称はこんなところか、つぎは、

『三人称限定視点(限定的三人称視点)』ね」



 ◇◆◇続いて、『三人称限定視点』です。



 ────


【 三人称限定視点(主人公に固定)】 


 三人称限定視点とは?


 ※明確にするには、彼の感覚・認知・思考に密着した文にすることが必要です。



 ❶「彼(彼女)」の視点で世界を見ている三人称。


 息が続かない。言葉がうまくつながらない。

 胸が締めつけられ、頭の中が霞んでいく。


 ※読者は「語り手」を感じにくく、彼が知覚し、感じることしかわからない。



 ❷(もう、これ以上迷惑はかけられない)

 その思いだけが、重くのしかかっていた。


 ※「()」内の独白は好みによりますが、限定視点ではよく使われます。



 ❸ その思いだけが、重くのしかかっていた。


 ※「彼は〜した」と書かずに、彼の体験を地の文でそのまま描いています。これにより、読者は彼の視点に閉じ込められ、他人事でなく内側からの体験として読めます。



 ❹  他人の感情や背景情報には触れない。


「……もう迷惑はかけられない」

 声に出すだけで、全身の力が抜けそうだった。


 ※「声に出すだけで、全身の力が抜けそうだった」のように彼が直接体験していることのみを描いています。



 ────【改訂文】────


 息が続かない。言葉がうまくつながらない。

 胸が締めつけられ、頭の中が霞んでいく。

(もう、これ以上迷惑はかけられない)

 その思いだけが、重くのしかかっていた。

「……もう迷惑はかけられない」

 声に出すだけで、全身の力が抜けそうだった。


 ────────────

 これをまとめると、


【利点】地の文は客観的だが、感情にも踏み込める。文章の自由度が高い。


【制約】基本的には主人公の視点に固定。他キャラの内面描写は避けるべき。


 ということになります。ふーん。



 ◇


「主人公限定、あなただけってやつ?」


「通販みたいやけど、そんな感じ」




 ◇◆◇最後は『三人称全知視点』です。


 ────



 〇 三人称全知視点 〇


 ※語り手(ナレーター)が全てを知っています。


 ※誰の心にも入り込めるし、登場人物が気づいていない事実や未来の展開にも触れられます。


 ※地の文には登場人物の思考や感情だけでなく、語り手独自の視点や説明、客観的情報も含まれます。



 ※「彼の内面」だけでなく、語り手の客観的・広範的な知識を交える形になります。

 

 ◇


「みたいなもんかな」


「うん。ちゃんとノートに書いた」


「いや、書くだけでなく、そこは実践しようよ」


 ということで、先ほどの原文を書き替えてみました。


 ◇


 ────


【 三人称全知視点(客観視点)】


 ❶ 視野の広さ

「罪悪感」「誰に向けられたのか」という内面+メタ的分析をナレーションが行っています。


「息が詰まり、言葉が出てこなかった。彼の胸の奥には、長く抱えてきた罪悪感が重くのしかかっていた。それが誰に向けた想いなのか」

 ※ 主観と客観の混在 感情の内面を描きつつ、それを読者が理解しやすいよう解釈・補足しています。



 ❷ 語り手の存在感

「彼自身にもはっきりとはわからなかったのかもしれない」など、語り手の考察・仮説が挟まれています。


「彼自身にもはっきりとはわからない。

 けれど――」



 ────【改訂文】────


 息が詰まり、言葉が出てこなかった。

 彼の胸の奥には、長く抱えてきた罪悪感が重くのしかかっていた。

 それが誰に向けた想いなのか、彼自身にもはっきりとはわからない。

 けれど――口を開いた。

「……もう迷惑はかけられない」

 その一言には、確かに何かを終わらせる覚悟がこもっていた。


 ────────────

 これをまとめると、


【利点】多視点で広い情報が出せる。語り手や他キャラの心情も描写できる。


【制約】視点移動が多くなると「語りの芯」がぶれやすく、感情移入が薄れやすい。


 ということになります。ふーぅ。




 ◆◇◇◆◆◇◇◆


 三視点のまとめ(書き換えの比較)


 ①視点

 ②特徴

 ③一部例文


 ① 一人称視点

 ②「僕」が語る。完全に主観的。

 ③「息が続かなくて、思考もままならなかった。」


 ① 三人称限定視点

 ②「彼」の視点に限定。客観的な語り手はない。

 ③「息が苦しい。何とか伝えねばと、彼は思っていた。」


 ① 三人称全知視点

 ② 語り手がすべて知る。感情・背景・他者も描写可。

 ③「息が詰まり、言葉が出てこなかった。その言葉は──罪悪感がのしかかっていた。」


 ◆◇◇◆◆◇◇◆


 ◇


「ちなみに…「視点の揺れ」には注意してね。」


「視点の揺れとは、習った3つが混在すること?」


「そうよ。視点が途中で変わると、読者は混乱するからね」


「……」


「例えば、

 ・ ツレは怒っていた。

「……ふざけるな」

 小生は驚いたが、言い返す気にはなれなかった。

 なにが間違ってるかわかる?」


「日本語は合ってる」


「そっちじゃない。この例は、視点がツレ→小生と無断でジャンプしてるでしょ」


「???」


「『ツレは怒っていた』はツレの主観が入るから、三人称目線、『小生は驚いた』は一人称でしょ」


「そぉかぁ」


「これをやると「ん?  誰目線?」と、読者が迷子になるから、まずは「視点を固定する」ことに気をつけて」


「了解です」




 ◆◇◇◆◆◇◇◆


 ○ 本日のまとめ ○


 視点は道具。上手く使えば文章が化けます。

 適材適所で選べば、作品の印象がガラッと変わります。

「どれが正解?」ではなく、

「この物語にはどの視点が合うか」を意識してみましょう。


 ◆◇◇◆◆◇◇◆


 ◇


「なに、ノート読んでるのよ」


「それにしても、大変だね。……私じゃ書けない」


「いや、そこは書こう。あんたの作品なんだから」


「……うん。頑張る」


 ◇


 今回は、夏バテもあり、あまりツッコミなしの、まともな講義となりました。

(改訂文を考えてくれたツレに感謝です)


 それでは皆さま、暑さに負けず、創作も、お体もお大事に。

 ご拝読ありがとうございました!









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