第八話「廃墟旅館と最後の予約」



 URLを開くと、●●県の山奥にある、既に営業を終了した旅館が表示された。

 かつては秘湯として知られていた場所。

 だが数年前、火災未遂と“失踪事件”が続いたことで廃業し、今では心霊スポット扱いされている。


 Googleストリートビューでは、なぜか旅館の中まで撮影されていた。

 本来は立ち入り禁止のはずだ。

 進むと、埃まみれのロビー、廃墟同然の畳廊下、誰もいないはずの客室のドアが順番に開いていく——


 その一室の奥、鏡の中に「もうすぐだよ」と書かれていた。



---


 動画をアップしたあと、SNSに妙な通知が入った。

 過去の投稿に、続々と「予約完了」「宿泊おめでとうございます」というコメントが付いている。


 身に覚えのない、宿泊予約のスクショまで貼られていた。

 宿泊者名:川●春斗

 チェックイン:2025年5月16日

 チェックアウト:——(記載なし)


 誰が操作した? 予約などしていない。

 だが、次の瞬間——スマホに通知が入る。


> 「お客様へ。ご予約ありがとうございます。お部屋の準備が整いました。」




 続いて、知らない番号からの電話。


 受話器を取ると、ザザ……というノイズの向こうから、囁き声が聞こえた。


 「おかえりなさいませ。あの夜、忘れていませんよね?」



---


 PCの画面が勝手に切り替わり、ストリートビューが“自動で再生”され始めた。


 映っているのは、廃旅館の最奥の客室。

 撮影者の視点が、布団の中にいる“何か”に向かって進んでいく。

 画面が暗転する寸前、布団の隙間から白い手がこちらを招いていた。


 コメント欄には、もはや言葉にならない「ア」「アア」「イタ」「マッテ」などの断片が並び、

 最後にひとつだけ、赤い文字で固定されたコメントが現れた。


> 「次で最後だよ。会いにきてね。」





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覗くストリートビュー ロロ @loolo

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