第41話 魔鶏の親子丼④
優秀な調理助手のアドルファスくんが焚き火を組んでいる間に、アリアは近場の藪から野草を摘んで抱えてきた。
アリアの抱えるその野草とは、
大量の魔鶏の肉があるという状況下、更には卵まで見つけてしまっては、もう、どうしても親子丼を食べるしかないなと思ったアリアは、しかしふと、玉ねぎがない事に気がついた。
他の野菜は百歩譲ってなくても構わないが、玉ねぎは居るだろう。
しかし、出立を慌てていたせいで、食べ物の準備は十分ではなく、現在手元に残っている食材は乾飯の残りと調味料、遠征用の兵糧丸だけだった。
どうしても何か野菜が欲しい。
そう考えたアリアは、近場を探索する事にした。
玉ねぎはなくとも、どこかにきっと野蒜があるはずだ。
あれは割とどこにでも生えている野草である。
見た目には細いネギのような野草だが、その葉の根元には玉ねぎだかラッキョウだかに似た小さい球根がついているのだ。
野蒜はネギとニラとニンニクを足して割った様な味わいの野草なので、遠征などで食材が足りない場合の代用として、第二魔導部隊の面々が、よく使っている野草であった。
日当たりがよく、背の低い草が多く生えている辺りに群生している事が多い。
毒性のある水仙や彼岸花などの植物とよく似た形状の葉をしているため注意は必要なのだが、葉をちぎった時にネギくさいなと思ったら、それが野蒜なのである。
アリア達四人以外にも第三騎士隊の面々が居るので、必要分だけでもそこそこの量が必要になる。
アリアは多めに作る事に決め、両手一杯の野蒜を抱えて戻る事にした。
適当に引きちぎった大量の野蒜が、アリアの腕の中でネギの匂いを放っている。
アリアが皆のいるところまで戻った時には、火の準備は出来ていた。
出してあった鍋には干し飯を水で戻しており、既にくつくつと煮込まれている。
先を読んで準備をしているとは、アドルファスは、なかなか優秀な助手である。
「お帰り、アリア。
その大量のネギみたいなのが言ってた野草?」
「うん、そう。野蒜ね。
よくその辺に生えてるから、見たことはあるだろうと思うけど。
これを玉ねぎの代わりにして、親子丼を作ります!
アドルはこれを水で洗ってヒゲ根を切り落として、球根の表面の皮を捲っておいてね!」
「了解、調理隊長殿。
任せといて、手が空いてるやつにも手伝わせる。
すぐに終わると思う。」
「「えっ!?」」
アドルファスのセリフに目を見張っている第三騎士隊員たちは、完全に驚いていた。
あらかじめ了承を得た上での発言なのかと思ったが、どうやらそうではなく、アドルファスの独断での判断だったらしい。
しかし、やはり遠征等で慣れているのか、文句も言わずに大人しく手伝うことにしたようだ。
アリアが魔術で血抜きをしてあった魔鶏の肉を切り分ける。
腿、胸、ササミを全て使った。
肉の味、肉の食感一つをとっても、人間というものはそれぞれの好みというものがあるものである。
それならばと、いっそのこと、全部使えば良かろうといった雑な気遣いをして見せた。
使う部位を決めたなら、後は肉を全て削ぎ切りにしていった。
こうしておくと火が通りやすく、肉の奥まで味が浸透しやすいのだ。
それが終われば次の作業。
親子丼は一つ一つ作るのが手間なので、今回は纏めて一度で作る事にする。
鍋に削ぎ切り魔鶏肉と雑に切った野蒜と共に、水、味醂を加えて火に掛けた。
本来なら出汁も一緒に入れるところなのだが、今はどこを探してもないものはないのである。
仕方がないないので諦めた。
鶏脂に期待するしかないところだった。
みりんの甘みを含ませた後、弱めの火にして醤油を入れる。
そして卵である。
魔鶏の卵は一つ一つが大きいため、これを溶き卵にしようとしても容器がなかった。
鍋は具を炒めるのに使うし、この大きな卵の量、どう考えても小鍋などには入り切らない。
ということで、卵の頭頂部に穴を穿って、そのままお玉で卵を切るように、ざっくりかき混ぜる事にした。
混ぜにくいので、均一の卵液とはならないのだが、どちらにしてもどの道卵は白身と黄身はマダラなほうが良い為にどこにも問題はない。
「アドル、この卵を持ち上げて、半分ずつを2回に分けて加えて欲しい。
私の腕力じゃ、重くてちょっと無理みたいだから。」
「よし!任せろ!
このまま半分投入すればいいんだな?」
「そうそう。」
アリアの指示通り、アドルファスが鍋に卵を流し入れた。
言った通りの半分量である。
あの大きな卵を軽々と持ち上げるのを苦ともしない、やはりしっかり鍛えてあるんだな、とアリアは感心した。
「なんだかほとんど白身のところばっかり流れ出してきたんだが…。」
「うん、それで大丈夫。
卵白の方が火が通りにくいから先に入れた方がいいし、それに白身は味が染み込みやすいから。
先に卵白入れといて、後から黄身…ってイメージかなぁ?」
入れた卵が固まってきて、煮汁がくつくつとしてきたところで、残り半分。
2回に分けるのは、火が通り過ぎないようにするためだ。
こうすることで、ところどころ半熟な状態に仕上がるのである。
そうして、味や食感に変化を付けられるのだ。
しっかり卵とフワトロの卵でのコラボレーションであった。
ちゃんとした食器の準備はないので、適当な器に盛り付けた。
お椀だの小皿だのマグカップだのと見事にバラバラなのだが、そこはそれ、ご愛嬌というものだ。
煮詰めた干し飯は若干水分多めだったが、これはこれで新食感?ということで、お許しを願いたい、というところであった。
暖かいご飯の上に、オタマで掬いあげた卵とじを滑らせる。
湯気がホワリと香り立つと、アリアのお腹がくうと泣く。
今日は何度も魔術を使い、お腹が空いていた。
実際問題、これは魔導師の宿命と言っても過言ではない—…かも知れない。
カップに盛られた親子丼を目の前に、アリアの瞳が輝いた。
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