『俺達のグレートなキャンプ32 全力!『七人の侍』再現!』

海山純平

第32話 全力!『七人の侍』再現!

俺達のグレートなキャンプ32 全力!『七人の侍』再現!


「よーし!今日も張り切っていくぞー!」

キャンプ場の入り口で石川が両手を高く上げ、大声で叫んだ。朝の静かな森にその声が響き渡る。

「石川さん、もう少し静かにしてもらえませんか...」

富山は疲れた顔で荷物を両手に抱え、石川を見つめた。昨晩は車で3時間かけて、この山奥のキャンプ場にやってきたのだ。

「なになに?富山ちゃん、まだ寝ぼけてるの?キャンプは朝が命だぞ!」

石川は相変わらずの元気さで、先頭を歩いていく。その後ろから、興奮した様子の千葉が続く。

「石川さん!今回のグレートなキャンプ、すっごく楽しみです!」

「おう!千葉、その調子だ!今回は特別なんだからな!」

富山はため息をつきながら二人の後を追った。三人は管理棟で手続きを済ませ、指定された区画へと向かう。

「この辺りかな?」石川が地図を確認しながら言った。「よし!ここだ!」

三人が到着したのは、広々とした芝生の区画。周りには他のキャンパーたちが既にテントを張り始めていた。

「さて!」石川がリュックを地面に下ろし、両手を叩いた。「今回のグレートなキャンプの内容を正式に発表します!」

千葉は目を輝かせて石川の方を向き、富山は「ああ、始まった...」と呟きながらも耳を傾けた。

「今回のグレートなキャンプのテーマは...」石川はドラムロールのジェスチャーをしながら言った。「全力で『七人の侍』再現!」

「え?」富山が思わず声を上げた。「どういうこと?」

「どういうことって...文字通りだよ!この辺りの草をなぎ倒して、あの名作映画『七人の侍』を全力で再現するんだ!」

富山は頭を抱えた。「そんなの無理に決まってるでしょ!まず七人いないし、侍の衣装もないし、刀もないし...」

石川は堂々と胸を張った。「そこがグレートなポイントなんだ!工夫次第でどうにでもなる!」

千葉は嬉しそうに飛び跳ねた。「面白そう!石川さん、具体的にどうやるんですか?」

「まずは準備だ!テントを張って、それから始めよう!」

三人はそれぞれのテントを設営した。石川は大きな赤いテント、千葉は明るい青のテント、富山は実用的なグリーンのテントだ。

設営を終えた石川は、大きな布袋を取り出した。

「じゃじゃーん!これが今回の秘密兵器だ!」

袋の中から、黒い布、竹刀、麦わら帽子、そして様々な小道具が出てきた。

「まさか...事前に準備してたの?」富山は呆れた様子で聞いた。

「もちろん!これでバッチリ『七人の侍』ごっこができるぞ!」

石川は嬉しそうに小道具を広げ始めた。千葉は興味津々で手伝い、富山はため息をつきながらも二人に加わった。

「でも侍は七人いるのに、私たち三人じゃ足りないでしょ」と富山。

石川はニヤリと笑った。「そこで...周りのキャンパーを巻き込むんだ!」

「え゛っ!?」富山の声が響いた。

「大丈夫、大丈夫!この辺りは『七人の侍』ファンが多いよ。前回リサーチ済みさ!」

「リサーチ...ってそんなことまで...」

富山の言葉が終わる前に、石川は近くのテントに向かって歩き出した。そこでは中年の夫婦が朝食の準備をしていた。

「おはようございます!」石川が元気よく声をかけた。「実は私たち、『七人の侍』の再現をしようと思っていまして...」

富山は心配そうに見守っていたが、意外なことに、その夫婦は目を輝かせた。

「『七人の侍』ですか!?わたし大好きなんです!」と奥さんが食い気味に答えた。

「私も!黒澤映画の最高傑作ですよね!」旦那さんも続けた。

石川は得意げに富山と千葉の方を振り返った。「ほらね?」

「信じられない...」富山は呟いた。

こうして石川たちは次々と近くのキャンパーたちに声をかけていった。驚くべきことに、多くのキャンパーが喜んで参加を申し出た。

「石川さん、すごいです!もう六人集まりました!」千葉が興奮して報告した。

「あと一人だな...」石川が周りを見回した時、少し離れたところでソロキャンプをしている渋い中年男性が目に入った。

「あの人!」石川が指さした。「あの人、雰囲気が最高じゃないか!」

「ちょっと...怖そうだよ...」千葉が小声で言った。

「大丈夫!行ってみよう!」

石川は意気揚々とその男性のテントに向かって歩き出した。富山と千葉は不安そうに後に続いた。

「すみません!」石川が声をかけた。「実は私たち、『七人の侍』の再現をしようと思っていまして...」

男性はじっと石川を見つめ、しばらく沈黙が続いた。三人は緊張して息を飲んだ。

そして突然、男性の表情が和らいだ。

「...『七人の侍』か」深い声で男性が言った。「実は私、黒澤明の大ファンでね」

「本当ですか!?」石川の顔が輝いた。

「ああ。若い頃は映画研究会でよく上映会を開いていたんだ」

「これは運命ですね!ぜひ参加してください!」

こうして七人目のメンバーも確保でき、全員集合した。

「それでは皆さん!これから『七人の侍』再現を始めます!」石川が全員の前で宣言した。「配役を決めましょう!」

石川は島田勘兵衛役、千葉は菊千代役、富山はなぜか志村五郎兵衛役に。他のキャンパーたちもそれぞれの役を与えられた。特に七人目の渋い男性は、当然のように沈黙の侍・加藤勝役となった。

「それでは、まずは村に現れる野武士たちのシーンから!」

石川の指示で、何人かのキャンパーが「野武士」役になり、草むらに隠れた。

「よーい、アクション!」

石川の掛け声とともに、「野武士」たちが草むらから飛び出し、「ウォーッ!」と叫びながら走り出した。

「おお!すごい迫力!」千葉が感動している。

「あれ?あそこのキャンパーが変な顔してる...」富山が心配そうに指摘した。

確かに、キャンプ場の他の利用者たちは奇妙な光景に驚いた表情を浮かべていた。管理人らしき人物が慌てて近づいてきた。

「あの、何をされているんですか?」

石川が満面の笑みで答える。「『七人の侍』の再現です!参加しませんか?」

管理人は頭を抱えた。「騒ぎすぎないようにお願いします...」

「もちろん!配慮します!」

管理人が去ると、石川は声のトーンを少し落とした。「よし、続きましょう!今度は侍集めのシーンだ!」

「おい、待てよ」渋い男性が急に声を上げた。「これじゃダメだ」

全員が驚いて男性の方を見た。

「どうしました?」石川が不安そうに聞いた。

「本物の『七人の侍』再現なら、もっとリアルにやらないと」渋い男性が言った。「まず、村人役が必要だ」

「あ、確かに!」石川はハッとした。「村人役も募集しなきゃ!」

そして石川は再び周囲のキャンパーたちに声をかけ始めた。不思議なことに、次々と村人役の志願者が現れた。

「これは予想以上だ...」富山は呆れながらも感心した。

準備が整い、いよいよ本格的な再現劇の開始だ。石川は大声で解説を始めた。

「それでは皆さん、注目!これから『七人の侍』名場面集の再現を始めます!第一幕、飢えた村人たちが侍を探すシーン!」

村人役のキャンパーたちが、肩を落として歩き始めた。中には演技に没頭するあまり、本当に疲れているかのように見える熱演も。

「もうこれで二度目の凶作じゃ...」

「野武士どもがまた来たら、村は終わりじゃ...」

村人たちの嘆きが、朝のキャンプ場に響く。周囲のテントからは好奇心旺盛な顔が次々と覗き始めた。

「次は!百姓が侍に米を渡すシーン!」石川が叫んだ。

石川が用意してきたおにぎりを、「米」の代わりとして村人役に渡した。村人役の一人が、千葉(菊千代役)の前にひざまずいた。

「これはわしらの命の糧じゃ...」村人役の中年男性が震える声で言った。「だがこれを捧げるから、どうか村を守ってくれ...」

千葉は一瞬戸惑ったが、すぐに役になりきった。「おう、任せておけ!俺様が守ってやる!」

その瞬間、意外なことが起きた。見物していたキャンパーの一人が、突然拍手をし始めたのだ。

「素晴らしい!」その人は目に涙を浮かべていた。「米の大切さ、命の尊さ...感動しました!」

「え?」富山は呆気にとられた。

次々と観客から拍手が起こり、中には「米の有難みが伝わってくる...」と感動の声を漏らす人も。

「これは...予想外の展開だ...」石川も驚いていた。

それでも再現劇は続いた。次は村を守るための作戦会議のシーン。石川が島田勘兵衛として、砂地に棒で村の地図を描き始めた。

「ここを囲って、野武士の侵入経路を限定する...」石川は真剣な表情で説明した。

それを見ていた村人役たちが、本当に感心したように頷き始める。

「なるほど...」

「さすが侍殿...」

周りの観客も、まるで本物の映画を見ているかのように集中していた。

そして、いよいよ殺陣のシーンへ。石川の合図で、「野武士」役のキャンパーたちが叫びながら襲い掛かってきた。

「侍たち」は竹刀を振りかざして応戦する。千葉は特に熱が入っており、「えいっ!」「そりゃー!」と叫びながら飛び回っていた。

最初は笑いを誘うような光景だったが、次第に全員が真剣になっていった。石川の指示で雨の中の決戦を表現するために、水鉄砲で水をかけるという演出も追加された。

「うおおおっ!」

「そこだ!」

「死ぬなよ、みんな!」

竹刀がぶつかり合い、キャンパーたちは泥だらけになりながらも熱演を続けた。特に渋い男性の演技は圧巻で、まるで本物の侍のような気迫があった。

この騒ぎを聞きつけ、再び管理人が駆けつけてきた。

「ちょっと!さっきお願いしたのに、騒ぎすぎです!」

しかし、管理人の言葉は途中で止まった。目の前で繰り広げられている熱演に、管理人自身が見入ってしまったのだ。

「これは...『七人の侍』の...」管理人の表情が変わった。

「あの...良かったら参加しませんか?」石川が恐る恐る聞いた。

驚いたことに、管理人は目を輝かせた。「実は私も黒澤映画大好きで...」

「よし!あなたは木村忠吉役だ!」石川が即決した。

こうして管理人までもが加わり、再現劇はさらに熱を帯びていった。

夕暮れ時、ついに決戦のクライマックスシーンに突入した。本来なら馬に乗って突撃するシーンだが、もちろん馬はいない。しかし、石川には秘策があった。

「千葉!肩車だ!」

「え?」千葉が驚いたが、すぐに了解した。

石川が千葉を肩に乗せ、「馬」に見立てて野武士たちに突進していく。他の「侍」たちも負けじと独自の「馬」表現で突進し始めた。管理人は膝を曲げて四つん這いになり、その上に渋い男性が乗って「人馬一体」の演技を披露した。

「うおおおおっ!」

キャンプ場全体が歓声と笑い声に包まれた。周囲のキャンパーたちもすっかり観客となり、拍手喝采を送っている。中には携帯電話で撮影する人も現れた。

「野武士」役たちは次々と倒れ、最後は石川と渋い男性の二人だけが立っていた。映画のラストシーンさながらに、二人は無言で見つめ合い、静かにお辞儀をした。

「終了ーーー!」石川の声が響き渡った。

割れんばかりの拍手が巻き起こった。キャンプ場全体が一つの劇場と化していた。

「すごい...」富山は思わず呟いた。「まさかこんなことになるなんて」

「石川さん!最高でした!」千葉は興奮して飛び跳ねていた。泥だらけになりながらも、満面の笑みを浮かべている。

渋い男性は石川に近づき、肩を叩いた。「若者、いい企画だった。久しぶりに本気で遊んだよ」

管理人も笑顔で近づいてきた。「実は私も若い頃、演劇をやっていたんです。懐かしくて...ついノリノリになってしまいました」

石川は誇らしげに胸を張った。「これぞグレートなキャンプだ!みんな、ありがとう!」


夜、キャンプファイアーを囲んで演者、観客が和気藹々と談笑するのであった。

(終)

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『俺達のグレートなキャンプ32 全力!『七人の侍』再現!』 海山純平 @umiyama117

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