一途な君と浮気をしたぼく

藤泉都理

一途な君と浮気をしたぼく




 ねえ、知ってる。

 クリオネって偏食でね、食べるのはミジンウキマイマイだけなんだって。

 だけどこのミジンウキマイマイは海洋酸性化が進んで、絶滅してしまうのかもしれないんだって。

 じゃあ、

 ミジンウキマイマイが絶滅したら、ミジンウキマイマイだけしか食べられないクリオネも絶滅するしかないのかしら。

 それとも、浮気をして別の生物を食べるようになるのかしら。






「浮気しないって。お互いに約束したわよね?」

「ああ」

「例え絶滅しても、他の生物に手を出す事なく、一途に想い続けようって。約束したわよね?」

「ああ」

「だったら。このプレゼントは何?」

「君が。気に入ると。あのこが、絶滅して。生産終了して。供給が停止して。新しいこが次から次へと誕生して。ぼくだって。あのこ以外は瞳に映らなかった。だけどこのこは。違ったんだ。君も気に入るって直感したんだ」

「いいえ。気に入らないわ」

「いいや。目が泳いでいるね。動揺している。あのこを裏切れない気持ちと、このこを迎え入れたい気持ちがせめぎ合っているんだ」

「やめて。私にはあのこだけなの。あのこ以外迎え入れないわ」

「仕方ないじゃないか」

「何が………仕方ないのよ」

「生きている限り、どうしたって、別れもあれば、出逢いもある」

「別れろって言うの?」

「いいや。ごめん。言葉を間違えた。あのこと共にこのこを迎え入れようって言っているんだ」

「そんな事、できるわけ。私はずっと、この子だけしか迎え入れないって決めていたの。浮気しないって」

「ちょ、待てよ」

「いいえ。価値観が違ってしまった。もうおしまいよ。別れましょう」

「そんな。待ってくれ。たったの二人。仲良くやって来たじゃないか?」

「ええ。これまではね。だけど言ったでしょう。私は浮気をしない主義なの。浮気をしたあなたと一緒にはいられない。あなたは浮気をする人と一緒にやっていけばいいわ。私は浮気をしない人と一緒にやって行く」

「見つけられるものか。そんな人間」

「だったら、一人でやっていく」

「先生が認めてくれるもんか」

「いいえ。一人でも認めてみせるわ」


 さようなら。

 セーラー服を翻らせて、ジャージーズボンを露わにした彼女が去って行く。

 ぼくと彼女。

 二人だけしか所属しない、クリオネのぬいぐるみを愛でる部活動が行われている部屋から去って行く。


「ぼくたちの学校の部活動の設立が認められる人数は、二人から」


 ふっ。

 哀愁を帯びた微笑を浮かべたのち、ぼくは彼女に持って来たプレゼントの透明なビニールを剥がして、ステラーカイギュウのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたのであった。


「君もぼくも絶滅する運命だったのかもしれないね」











(2025.5.17)




「参考文献 : 『魚食普及推進センター 環境・資源管理 「クリオネが絶滅する?偏食のクリオネのエサが海洋酸性化でいなくなる?」』」





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一途な君と浮気をしたぼく 藤泉都理 @fujitori

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