第13話 笑顔


東京、オフィス街の一角。



夕暮れ時のビルの前

スーツ姿の人々が足早に通り過ぎていく中――


律は、ビルの前に見覚えのある姿を見つけて

思わず足を止めた。



(……灯?)



淡いベージュのワンピースに、風に揺れる髪。


ビルの前でぽつんと立つその姿は

見間違えようもなかった。



「……どうして…。」



言葉にできないまま近づくと

灯がふわりと笑った。



「……おつかれさま、律くん。」



まるで、毎日ここで待っていたかのように

灯はいつもの、優しい笑顔でそう言った。



「もう、全部わかっちゃったよ?」



驚いた顔をする律に

灯はいたずらっぽく笑った。


「東京に住んでることも、会いに来てくれてたことも。ぜーんぶ。」



律は、顔を隠すように少し伏せながら、



「……かっこ悪いな、俺。」


「ううん。ずっと会いに来てくれてたこと…すっごく嬉しかった。」



灯の瞳には、責める色はなくて。

ただ、柔らかく、まっすぐに彼を見ていた。



「……ずるいな。」



思わずこぼれた律の声は


どこか苦笑混じりで…


けれどその目は、どこまでも真剣だった。




「灯。もう一度俺と…、ちゃんと向き合ってくれる?」


「うん。……今度はわたしも、律くんに会いにくる…。」



差し出された律の手を、そっと灯が握った。



街の喧騒の中。


2人だけの、静かな約束。


それは、嘘を越えて見つけた――



本当の恋の、始まりだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

灯る距離 うみ* @umi_06

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ