第3話 待ち合わせ


「…あ、いた。」



駅前のロータリーで手を振る灯の姿を見つけて、律は自然と表情を緩めた。


グレーのロングスカートに白のブラウス。


落ち着いた服装なのに、彼女が身につけるとどこか柔らかくて、あたたかい印象を与える。


「待たせた?」


「ううん、わたしも今来たところ。」


灯はふわっと笑って、そう言った。

その笑顔に、律の胸がふと高鳴る。


「よかったら、今日はちょっと歩かない?駅前に新しいカフェできたみたいで。」


「あ、知ってる。気になってたとこ。」


「じゃ、そこ行こっか。」


他愛もない会話を交わしながら、

並んで歩く2人。


律はふと、右手に揺れる灯のミニトートに目を落とす。小さなぬいぐるみのキーホルダーがぶら下がっていて、少し彼女らしいな、と思った。


(…あと何回会えるんだろうな。)


ふと、そんな考えが頭をよぎる。


今、自分は「こっちで働いてる」なんて嘘をついている。


本当は、東京。


毎回バレないように必死だ。


けれど、会いたい気持ちだけは、本当だった。


「…ねえ、律くん。」


ふいに呼ばれて顔を向けると、灯が少し顔を赤らめてこちらを見上げていた。


「…誘ってくれて、ありがとう。」


その一言に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。


「…俺も、会えてよかった。」


嘘をついたまま笑うのは、後ろめたい。


でも、それでも――


(もう少しだけ、この時間が続けばいいと思った。)

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