第14話 試験終了



 シャックスは全力を出して勝利した後に、倒れこむ勝者を見つめる。


 勝者は自分の合格は揺るがないと思って、余裕の笑みを浮かべていた。


 しかし、彼は失格になった。


 グリードが言い渡す。


「お前は失格だ。アリーナから出て行ってもらおう」

「そんな! 何でだよ!」

「スポーツじゃないんだ。後の事を考えろ」


 グリードが言うには、一度の戦いで全力を出すような人間は不適格という事だった。


 グリードたちが揉めている間も、試験は進行していく。

 

 次はシャックスの番だったため、用意された武器を眺める。


 シャックスは剣を選んだ。


 他の者達と共に舞台に集まると、先ほど揉めていた勝者がいなくなっていた。


 グリードはシャックス達のグループに注目している。


 試験を監督する男性の一人が「それでははじめます!」と合図を行う。


 シャックスのグループの番が始まった。


 シャックスはうまく立ち回り、攻撃を避ける。


 舞台の外で、見学者である他の探索メンバー入り希望者達が、シャックスの事を見ながら話をする。


「あいつすばしっこいな」

「でも避けてるだけじゃねーか」

「大した事ないだろ」


 シャックスは、十人すべての行動を把握しながら、回避に専念して行動。


 相手を倒す必要がないと判断したシャックスは、敗北しそうになっている少年を助ける。


 風の魔法を使って、拳で殴られそうになっていたその人物を吹き飛ばす。


 舞台から退場にならないギリギリの範囲で、その少年は倒れた。


 乱戦の中、互いのグループの者達が戦い合い、相手グループの者達が徐々に戦闘不能になっていく。


 しかし、シャックスのグループの者達は倒れない。


 危なくなったらシャックスが魔法で援護するからだ。


 そんな中、先ほどシャックスが吹き飛ばした少年が話しかけてきた。


 少年の名前はハクア・メリア。


 相性はハクと言う。


 グリードの話をメモしていた人物だった。


「あの、さっきはありがとうございます。僕はハクア・メリア。ハクと呼んでください」


 話しかけながらもハクは、相手の行動を分析している。


 しかし、動きが遅かったため、たびたび好戦的な人物に狙われていた。


 シャックスはその度に彼を守った。


 有用な人物だと思ったから、というのもあるが、なぜか彼の味方をしたくなったからだ。


 そんなやりとりが数度続いた中、ハクが敵グループのリーダー各の男性について言及した。


 二十代半ばのモヒカン頭の男性についてだ。


 その男性は斧を持っている。


 ハクが呟く。


「左手をかばう仕草をしてるけど、怪我でもしてるのかな。左側から攻撃できたら…」


 シャックスは試しに左から攻撃を仕掛けてみた。


 これまで援護に徹していたシャックスが仕掛けてきた事に、相手グループは驚く。


 モヒカン頭の男性も驚き、反応が遅れた。


 斧を振り回すが、間に合わず、風の魔法で舞台から吹き飛ばされた。

 

 やがて制限時間が終了し、シャックス達のグループは誰も敗北しないグループになった。


「すごい人だなぁ。世界は広いや」


 ハクはシャックスを見て、目を瞠り、感心した声を発する。


「僕も有名な魔法使いになるために頑張らないと」





 他のグループではサーズが活躍した。


 水の魔法で圧倒し、あっという間に一人で勝ち残っていた。


 サーズは倒れた者を一瞥すらせず、舞台の上から降りる。


 その途端、周囲を人が取り囲んだ。


 彼らは、サーズほどの実力者であれば、試験を合格した後に行動を共にした方がメリットが多いと判断した者達だ。


 そして、クロニカ家の人間と近づき、その名前と血筋で利益を得たいと考える者達もいる。


「さすがクロニカ家の息子は違うな」

「見事な戦い方でしたね」

「きっと大変な努力をされたのでしょう」


 笑顔で丁寧な言葉使いで話し掛けてくる彼等を見た、サーズは同じような態度で接する。


「ありがとうございます。私なんてまだまですよ」


 内心ではげんなりとしていたが、サーズはこういった行動の必要性を知っていた。


 クロニカ家は名家であるが、さらに上の人間と強大な権力には勝てない。


 どんな横暴な態度をとっても良いのは、力の劣った人間相手だけだと。


 強大な力を持ったワンドですら、国の要請を拒否できないのだからと、サーズは一定の現実を理解していた。


 国が行っている試験の場で揉め事は起こしたくなかったし、クロニカ家に次ぐ貴族の家の子供もいるため、サーズは丁寧な態度を崩す事はなかった。

 

 そんなサーズは子供の頃から、人の顔色を読む人間だった。


 接している相手の機嫌や考えている事が何となく分かったため、立ち回りがうまかった。


 だから、当主であるワンドに気に入られる行動を探るうちに、シャックス達落ちこぼれとよく敵対するようになった。


 最初の内は、サーズの心の内には罪悪感があった。


 しかし、何度も敵対するうちにそんな感情は消え去っていった。


 特にワンドが双子の内の落ちこぼれを処分するつもりでいると知ってからは尚更だった。


 偶然、使用人と話している時に、その事実を知ったサーズはシャックス達を排除しようとした。


 落ちこぼれである彼らに負けるはずはないが、心の中には原因不明の恐れがあったからだ。


 結果的には、サーズはフォウに圧勝し、ニーナやシャックス、レーナと共にあっさりと処分されたため、杞憂だった。


 サーズは自分がしてきた事を後悔していなかった。


 最善を尽くし、最適な行動をとったと思っていた。




 アリーナでは試験開始から約二時間が経過した。


 全てのグループの戦いが終わり。


 その日は解散になる。


 シャックスは都の片隅にある宿で宿泊。


 布団に横になったら、疲れですぐに眠りについた。


 翌朝、鳩が手紙を持ってくる。


 鳩には足輪がついていて、小さく国の名前が書かれていた。


 その鳩は、国からの文書を届ける伝書鳩だ。


 手紙を読むと、シャックスの合格が記されていた。 




 翌日。


 シャックスは、アリーナに行く。


 合格者は百人人程だった。


 その中には、サーズもいた。


 アリーナでは探索についての話が行われた。

 話が終わった後、支給品が配られる。


 大陸に渡るのは一週間後で、それまでは都で好きなように過ごしていても良いと言われる。


 ただし犯罪行為を働いたものはメンバーから外されると注意された。




 アリーナから出る時、アーリーに声を掛けられる。


「ねぇ、シャックス。ちょっと付き合ってよ。暇?」


 シャックスは頷く。


 シャックスは、アーリーに誘われて酒場に向かう。

 都の料理に舌鼓を打っていると、そこにサーズがやってくる。


 シャックスは、視線を合わせないように気を付けた。


 アルコールを頼んで、飲み、酔っぱらったサーズは他の客にちょっかいをかけ始めた。


 絡まれているのは、アリーナで見かけた事のある気弱そうな少年だった。


 お金がないので、一番安い酒場で腹を満たそうとしていたのだ。


 サーズは弱いくせに、探索隊になるなと言って、辞退しろと要求する。


「なにあいつ、嫌な奴。ちょっと止めてくる」


 言動がしつこいため、アーリーが止めに入りにいった。

 サーズと決闘騒ぎになるのは困るため、シャックスが代わりにサーズを打ち負かす。


 木製の食器を風の魔法で投げつけて、昏倒させた。


 アーリーと目が合った。


 アーリーはシャックスにウインクして、元の席に戻ってくる。




 シャックスは、アーリーと別れて、宿に帰る。


 その道の途中。

 シャックスはつけられている事に気づく。


 裏路地に入って誘い込むと、シャックスの目の前に屈強な男性たちが現れた。


 屈強な男性たちはニヤリと笑う。


 しかし、3秒ほどで彼等は地面に寝転がるはめになった。


「こんなに強いなんて聞いてねぇぞ」

「誰に頼まれた」


 倒した彼等にテレパシーで話を聞くと、サーズに雇われたと言う。


 シャックスは、面倒を起こさないために、仮面のかけらに自分の血をつけて彼らに渡す。


「ボコボコにしたとサーズに報告しておいてくれ」

「お、おう。分かった」


 屈強な男性たちは、いぶかしそうな顔をしつつも、さっさと退散する。


 サーズには、今は良い気になっていてもらおうと考えたからだ。




 数十分後。


 酒場の裏手で報告を受けたサーズはにやりと笑った。


「大した事ないみたいだな」


 サーズは機嫌よく鼻歌を歌いながらその場を去る。


 なぜか脳裏にシャックス達の顔が浮かんだが、すぐに消えていった。


 試験に合格していたため、探索に向けて準備をする必要があったからだ。


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