夕方のベランダ
ベランダに出たらカラス。アパートの前の、いい電線にとまってるね。
「ここは私の特等席なの。ここにいると、この街が私のものになった気分になるわ」
この街、好き?
「そうね。人間がいて、カラスがいて……まあ、悪くない場所かも」
他のカラスと縄張りを争って喧嘩することはあるの?
「するわよ。特に、この場所を守るときは容赦なく。でも必要な喧嘩だけよ」
その電線、そんなに素敵な場所なんだね。
「ここから見える景色は私の大切なもの。この街を人間と分け合って、守っていきたいわ」
僕はこのベランダに置いた、この椅子を気に入っているよ。カラス、僕の膝に下りてきてくれない?
「だめよ! そんな誘いに乗るほど私は落ちぶれてはいないわ」
パンくずあげるよ。
「そ、そんな古いパンより、新鮮なゴミのほうがいいわ」
ちらっと見たね。……はい、膝の上にパンくずをばら撒いてみたよ。
「ま、まあ、折角だから少しだけいただくわ」
おいで。
「そんなに急かさないでよ。怖いじゃない……」
だんだん近づいてきた。ベランダの手摺に降りたな。おいで、なにもしないよ。
「本当になにもしないわよね?」
約束するよ。
「約束したからね。ちょっとだけよ」
あ、カラス膝に乗っ……。かわいい。でも、触るのは我慢。
「そうよ、触らないで。でもパンくずもう少し頂戴?」
手から差し出してみても、食べるかな。
あ、慎重にくちばしを伸ばして……食べた。
「……人間って、たまには良いわね」
たまにはこうして遊びに来てよ。
「毎日は無理だけど、週に一度くらいなら考えてあげてもいいわ」
君の気分次第でいいよ。
「そう言ってくれると助かる。私の気分は変わりやすいから。でもこんなの、他のカラスには内緒よ」
分かった。他のカラスには関わらないよ。
「私とあなただけの特別待遇よ。だからといって、調子に乗らないでよ?」
カラスと少しだけ仲良くなれて嬉しいよ。
「私も……少しは人間を信頼してみようかなって思えたわ。そろそろ塒に帰らないと。また……来てもいいかしら?」
うん、今日はありがとう。これからまた来てくれる日が楽しみだな。
「カア……そんなに期待されると、来づらくなるわよ」
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