第12話 最終回「優しく抱きしめて…」

 毎度毎度…馬鹿馬鹿しい、お笑いを…

「サラ…お願い…」

聖女に願うムツミの望みは、再び人であるエレナを、元に戻す事だった…

 「ムツミママ…私と一緒になる?」

 「いいの…娘ちゃん…」

サラの提案に戸惑う63号だったが…人類を生存させる事を第一に考える、ふたりの利害は一致していた…

 「分離…そして…合体!」

ムツミがそう叫ぶと…彼女の首は外れた、そして胴体のエレナが復活し…宙を舞ったロボの首は、今度はサラと一体となる…

 「ワタシ…新キルギアって感じ…エヘッ(ホント、聖女の肉体…なんて神々しい…そうだ、やる事がまだ…)ムジカ…エレナとディープを連れて逃げなさい…この星から」

サラと合体し、知的レベルの上がるムツミの思考…

 「でも…戦いは、まだ…」

エレナは、魔王を放置する事を疑問視する。 

「助かるよ、63号…もう二度と、エレナを失いたくないから…」

自分勝手なディープ…

 ムツミと、瞳越しのテルザの意志は、何もかも理解している…

 「もう…いいよね…マイハニー…」

 「ええ…ムッちゃん…私のする事はここまで…人類がいなくなったこの世界で、戦う意味は無い…」

大地に座り込むマルコス…(IN テルザ)

 「じゃあ…ムジカ…頼んだよ、人類の未来を…」

 「ハイ…お姉様…」

そう言って、宇宙船に変形したムジカは、エレナとディープをその体内に取り込み、銀河の彼方へと旅立って行った…


 時は過ぎ…地上には、魔王と同化したテルザと…ムツミだけが、誰もいなくなったこの世界で、たたずんでいる… 

(彼女達は、あの時のままの姿)

 額の瞳越しにテルザを、舌で舐め回す

63号…

「あぁ…ハニー…今すぐ抱きしめたい…」

「ムッちゃん…私は、見つめ合ってるだけで…幸せだよ…」

ふたりの…プラトニックな愛の時間は、それから何年に及んだだろうか…でも、ついにその日がやって来た… 

 「ムッちゃん…アレが…」 

 「そっか…もう、そんなになるか…」 

 「笑って、ムッちゃん…いつもみたいに…」

 「ハ、ハイ…マイハニー…エヘッ!」

ムツミの笑顔に呼応するかの様に、かつてのムジカによる…地上破壊砲の光弾が、地上に降り注いだ…

(50年後のこの世界に…)

大魔王は立ち上がり…全身でその攻撃を受け止める。やがて、肉体は破損してゆき…終わりを迎えようとしていた。その時初めて、マルコスの意志がテルザの思考に伝わる…

「何処に…飛びたい?」

 「そうね、あの双子の…実体のいるトコロへ、行きたいな…ムッちゃん…カラダはあげる…またね…」

マルコスの額から、光が放たれ…現実世界へ…巨大隕石として、落下するテルザ…

(ワタシが落ちた世界…大地は割れ、津波を発生させる…その先に…会いたかった2人の姿…本物のキルギアで、また逢えたね…)

 元の異世界…ムツミは、ムジカの地上破壊砲を全身ミサイルの発射により、完全に粉砕する…消え去ったテルザの残骸(マルコスの破片)をかき集め、統合し…テルザの遺言通り、肉体を完全体に作り変えて…


(サイド:ムツミ)

 あれから、何年が過ぎただろうか…ひとりで暮らす生活にも、すっかり慣れてしまった…(でも、寂しい…テルザは、何処に行ったの…)

 人で無いワタシは、食事も排泄もする事も無く…何の楽しみも無い、でも…生きている…

(生きて…ホントにこれで、生きてるって言えるの?あと…何か…ん、そうね…どうして、ワタシが作られたのか?存在する理由っていったい?…考えて…思い出すのよ、ムツミ…)

 今日も…廃墟のホテルで、肉体のメンテナンスをしながら…待っている、来る日も来る日も…ただひたすらに…

 キーン…キーン…ゴゴゴゴ… 

灰色の空に、虹が架かる…飛行機雲?光が…落ちてきた…(いえ…降りてきたの…あの、懐かしい…)

「ただいま…お姉様…」

宇宙船形態の妹の背中が開き、出てきた人影を紹介される…

 「あれから…スゴイ年月が流れたわ…見て、ムツミ姉さん…この子達が…エレナとディープの遥か子孫…」

目に映ったのは、エルフとゴブリンの男女の双子…(かつて、ワタシが…した…アレにそっくり…)

 「本来…人類と魔族は、同じ物だったのかもね…その遺伝子は、繰り返された…素敵でしょ…姉様…」

 「あなたがムツミちゃん?よろしく…」

女性型エルフの少女が、手を差し伸べる…

 「先祖が言ってた通り…スゴイ美人…」

男のゴブリンの青年が、笑顔で近づく…

ワタシの本能は、反応する…

 「魔力反応…検知…上限を越えました…ピーピーピー…ガーガーガー…」

目から発せられた光線は、ふたりを貫く…そのまま光力は途切れず、ムジカをも破壊する…

(そうね…魔王の肉体を引き継いだワタシの戦闘力は、妹を上回ってたんだった…)

 「任務完了…機能停止…」 

(ワタシの任務…存在理由…魔族の抹殺…全てを消し去った時…使命と共に…ワタシも…)

肉体の機能は、失われ…思考は、消えてゆく…記憶と言う名の思い出と共に…

(あぁ…寒いな…それに…眠いよ…)

 降って来たのは雪…いえ…死の灰か…

「快感…天国の…快感…エヘッ!」

 

 毎度…馬鹿馬鹿しい、お笑いを…

全てが消え去った、不毛の大地に…ひとつの植物が誕生する…ワタシ茸というキノコだ…学名は、キルギアと呼ばれ…全てを記憶する存在として記録された…

 お後が、よろしいようで…


(サイド:テルザ)

 キルギアと同化した私は、ふたりと共に現実を選んだ…無限の領域には、全てが存在する…

 山林の奥深く…人里離れた場所にある教会…

 「おめでとう…テルザ…可愛い妹よ…」

ディープお兄ちゃん…ありがとう

 「自慢の娘よ…幸せになってね…」

エレナママ…今日もキレイよ…

「マイハニー…」

私のムッちゃん…愛してるわ…

 彼女と、指輪を交換し…キスをする…何度触れても…トキメキは収まらない…大好き…

 私達の手の中には、ふたりの子供…カワイイ女の子…

 「名前は何にする?ハニー…」

問うムツミ…

 「ムジカかな…」

って、私…

 「サラってのは、どう?…エヘッ」

と、ムッちゃん…


THE・END


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金の為の噺家―I LOVE キルギア― 亀川暗(キセンクライ) @abvaita

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