第3話

 俺とダークエルフでは色々と差があるのだが、特例という事でパーティーを承認してもらう。またギルドとしても、初心者の生存率は出来るだけ高めたい所だろう。

「本当によろしいんですか」

「最近はまともに働いてなかったし、俺にとっても都合が良い。……初心者にリタイアしたベテランが帯同するのを、初めの内は義務化する。これ、悪くないな」

「提案として承ります」

 くすくす笑う受付嬢。なんだか本当に、年寄りじみてきたな。

「急げ、時間は有限だぞ」

 今にも走り出しそうなダークエルフ。

 言い方はむかつくが、それはもっともだ。

 歩く事しばし、街外れの森へと辿り着く。俺も初心者の頃は良くここに通ったものだった。

「依頼は薬草採取。とにかく探して、必要分を集める。それだけだ」

「ふむ」

 一応は素直に探し出すダークエルフ。とはいえ簡単な依頼とは言え、報酬が出るレベルの話。その辺にざくざくと生えてはおらず、依頼分を集めるには時間と労力を要する。

 俺も昔を思い出して、探してみるとするか。確かこの薬草は、特定の木の下に……。

「あった、あった。まだ若いが、これでも十分だろ。っと、こっちのキノコは煮ると美味しいんだよな。よしよし」

「何がそんなに楽しい」

 四つん這いになってキノコを狩っていると、ダークエルフに真上から見下ろされた。言い方はむかつくが、少々はしゃぎすぎたのは否めない。

「私も見つけたぞ。しかしこれを指示通り集めたところで、今日の食事代くらいにしかならないだろ」

「依頼だけをこなすなら、確かにそうだ。だけど、俺が今手に持ってるのは何だ」

「キノコ」

「そういう依頼以外の物も集めて、自分で食べるなり市場で売る。ギルドで斡旋される仕事以外に、懇意の業者や店を見つければ多少なりとも生活は楽になる」

 特に初心者は依頼をこなすだけでは限界があり、副業では無いがそれ以外の収入を得なければ生活が成り立たない。

 結果追い詰められた冒険者は、功を焦って分を過ぎた依頼に走る傾向にある。もしくはもっと手っ取り早く、他の冒険者を襲う事だって。

「魔物を狩れるくらいになれば、生活も待遇も変わってくる。それまでは地道に力をつけるしか無い」

「勇者様はどうだった」

「あいつだって、初めの頃はウサギも狩れなかった」

 いや。実力自体はあったかも知れないが、俺がようやく捕まえたウサギを捌いていたらすぐに逃げていった。お互い若かったというか、遠い遠い昔の話だ。

「たまにそういう顔をするな」

「どういう顔だ」

「知らん」

 強引に渡される薬草。多少違っているのも混じっているが、それはギルドが選別するし俺も一応確認はするので問題は無い。昔はギルドで全部突き返されて、途方に暮れた事もあったが。

「貴様、やる気はあるのか」

 今の指摘は、もっともだと自分でも思う。


 昼過ぎにはどうにか規定の量が集まり、休憩もかねて食事にする。まずは火を熾し、その上に鍋を掲げて今採ったばかりの山菜やキノコを入れていく。

「後は携帯用の固形スープと、水だ」

 これさえあれば、大抵の食材なら食べられる味になる。また薬草も入っているため、いざという時にも多少の保証にはなる。あくまでも多少。

「街に戻らないのか」

「普通なら俺も戻る。とはいえ、今日は初日だ。それに冒険者と言えば、野営だろ」

「ふーん」 

 また年寄りがはしゃいでいると思っている様子。それほど年齢差があるとは思えないのだが、こればかりは仕方ない。

「それと、食事時は気をつけろ」

「気を抜いてる時に、魔物が襲ってくるのか」

「ああ。襲ってくるのは、魔物だけじゃないけどな」

 料理の音や会話、そして緩んだ気分。忍び寄るには絶好の機会で、襲われた事も1度や2度では無い。

 まして俺達は勇者一行。違う意味で名を挙げようと企む輩は、後を絶たなかった。

「お前が勇者に憧れる気持ちは分かるが、外から見ているほど華やかではないし良い事ばかりでも無いぞ」

「だけど勇者様だ」

 断固として譲らないダークエルフ。俺も初心者の頃に同じ話をされたら、何を言っているのかと反発したはず。今は何を言っても、聞く耳を持たないか。

 食事を終え、火の始末を済ませる。枝葉の間から覗く日はまだ高く、今日は何事も無く終わる事が出来そうだ。

 油断。そこに魔はつけ込み、すり寄ってくる。

 そう思わずにはいられないタイミングで、魔物の気配を察知する。

「どうした」

「剣を抜け。俺から離れるな」

「魔物か」

「この辺に大したのは出ないが、人を殺すくらいの事は簡単にする」

 背後に感じる緊張した空気。返事も生返事で、少し震え気味。それが武者震いで無いのは、俺にも伝わってくる。


 短剣を片手で構え、もう片手は背後に回す。別な武器を使うため、そしていざという時はこいつを抱えて逃げるためだ。

「絶対に走るな。後ろからやられるぞ」

「分かった」

 震え気味の返事。衝動的に走り出す危険性は無い、と思いたい。後は俺がいかに素早く倒すか、そしてこいつの資質がどの程度かだ。

「カッ」

 甲高い鳴き声と共に、真上から降ってくる赤い塊。人間が2人で、1人はほぼ硬直。たやすい獲物と思われたか。

 半歩下がり、一旦回避。そこに改めて、別な角度から赤い塊が降ってくる。初めのは俺を動かすための囮。ダークエルフで背中が詰まり、動きを制限しようという策か。

「馬鹿が」

 長剣を上段に構え、力任せに振り下ろす。技術も何も無く、ただ剣を振り下ろす。

 猪を上回る大きさの魔物が2体。対してこちらは、ナイフみたいな短剣を持った馬鹿と、その後ろで震える女。

 魔物が人間の言葉を話せたら、「それはお前だ」と返してきたかも知れない。

 


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