第16話

日が沈むまで捜索したが誰一人としてクロを補足することが出来ず、辺りが暗くなったことで女性陣は古城へと戻され、夜の捜索はリースが魔法で生み出してくれた光の玉を持った男性陣と琅に頼まれ、夜目が効く動物たちで行われていた。


「……琅さんの話的に人型にも動物にも虫にも擬態出来るって話だけど人型とか大きめな動物だと目立つから小動物か虫だと思うんだけど森は広いし、留まらずに動き回ってるだろうからなかなか見つからないな……」


悠希は土等で服や頬を汚しながらも林の中や草むら等の捜索を出来る範囲で行っていた。


「…ん?」


めげずに懸命に探していた悠希は妙な気配を感じ、ある一点を見つめた。そしてその後直ぐにその気配を辿るように動き出す。すると向かった先には武装した吸血鬼数名とライラがいて、吸血鬼の一人である男に髪を無造作に掴まれているライラの体は宙に浮いていて暴行を受けていたのか服等は血で汚れ、血が不足していて再生が追いついていないのか殴られたであろう頬は酷く腫れていた。


「あれは…」


悠希はライラの姿を見て直ぐに助けてあげようと思った。だがその前に違和感を感じた悠希は辺りを見渡し始める。


「……怖がっているのにごめんね。申し訳ないんだけどルシュフさん呼んできて?伝達とかでもいいから」


その後、近くの林の中で吸血鬼たちに怯え、動けないでいる子うさぎを発見した悠希は出来るだけ目線を合わせる様にしゃがみ、優しい口調で頼み事をした。すると子うさぎは少しだけじっと悠希を見たあと、跳ねるように何処かへと行ってしまう。


「……怯えさせちゃって何処かに行っちゃった可能性もあるけど今はあの子うさぎを信じよう」


子うさぎを見送った悠希は直ぐに吸血鬼たちへと駆け寄った。その際、ガントレットから剣を取り出そうとしたが取り出すことが出来なかった。初めて取り出そうとしたし、取り出せなくても仕方がないと慌てなかった悠希は吸血鬼の一人の腰にぶら下がっていた剣を取りに動いた。油断していた吸血鬼は鞘ごと剣を悠希に奪われ、悠希は奪った剣でまずはライラの髪を掴んでいる吸血鬼の手を殴打した。すると殴打された吸血鬼は痛みからライラの髪を離し、ライラは地面へと倒れ込んでしまうが悠希はそれをチラ見するだけで受け止めずに剣をかまえ、吸血鬼たちを警戒するように見つめる。


「っ…人間風情がっ」


手を押え、痛みに耐えながら吸血鬼は睨みつけるように悠希を見た。


「よせ。我々の目的はそこの女だけです。そこを退いてくれませんか?」


比較的、口調が柔らかいリーダー格の男が今にも悠希に噛みつきそうな吸血鬼を静止したあと、悠希に向かって問いかける。


「…嫌だ。この人が何をしたかはわからない。でもここまで暴行されているのを目にして見て見ぬふりなんて出来ないから」


吸血鬼たちを警戒するように見つめながら悠希は鞘から剣を抜き、両手で持ってかまえる。


「ならば仕方がありません。ここはひきます」


リーダー格の吸血鬼が宣言すると周囲の吸血鬼が人間なんて殺せばいい!等の反発の声が上がる。


「…もしここでこの人間を殺せば古城の奴らからのの反撃を食らう。目的は既に達成していますし、屈辱的ではありますがここはひきます」


リーダー格の吸血鬼は颯爽と姿を消し、他の吸血鬼たちは悔しそうにしながらもそのあとを追って消えた。


「……呼ばれたから来たが大丈夫か?」


念の為、警戒を解かずにいた悠希へと声をかけながら近づいてきたのは先程の子うさぎを抱き抱えたルシュフだった。


「っ…ルシュフさん!あそこ!あそこの木にとまってるリスが多分、クロさんですっ!」


ルシュフに声をかけられたことで悠希はハッとしたように剣を鞘へと納め、地面へと置いたあと直ぐに少し離れた所にあった木の枝にいるリスを指で示した。


「……この子うさぎを頼んだ」


悠希の声に反応し、慌てて動き出したリスを見てルシュフは子うさぎを押し付けるように悠希へと渡したあと、瞬時に動き出した。リスの身体能力では捕まると思ったのかリスから人型へと変わったクロは悪魔としての速さで逃げ切りをはかろうとした。だがクロ捜索の為、事前にリースの血を摂取していたルシュフに適うわけなくクロはルシュフに腕を掴まれてしまう。


「……降参だ」


クロは素直に負けを認め、動きを止める。


「だが薬を渡す前に何故、私がリスの姿であの場にいるのがわかったのかあの者に聞きたい。連れていけ」


クロはその後直ぐに自分の姿をまるまるとしたカラスへと変え、飛んでルシュフの頭の上へと乗った。


「……自分で行けるだろう」


ルシュフはクロを頭の上からどかそうと手を伸ばした。


「私を捕まえたのだ。貴様の方が動きが速いのだから連れていけ」


クロは右翼を使い、払い除けるようにルシュフの手をバシッと叩いた。ルシュフは諦めた様にため息をついたあと、手を引っ込めて動き出した。


「…ついたぞ」


そして直ぐに悠希の元へと辿り着いたルシュフはクロへと声をかけ、クロは飛んで悠希へと近づいていく。


「おい」


子うさぎを傍らにおいて膝をつき、親指を自分の歯で傷つけそこから流れる血をライラの口へと流し込んでいた悠希の背後からクロは声をかけた。悠希はなんだろうと思い、クロへと目を向ける。


「勝負は私の負けだ。薬を渡そう。だがその前に一つ聞きたい。何故、私がリスに変化し、あの木にいることがわかった」


クロは人型へと変化した後、真っ直ぐ悠希を見つめる。


「えっと…だって他の動物たちはあの場から逃げたり、怯えて動けずにいたりしていたのにリスだけは動かず、真っ直ぐこの女の人や吸血鬼たちを見つめていたから…だからクロさんなんじゃないかなって思って…そうだった場合、俺じゃ逃げられる可能性があったから吸血鬼たちに突っかかる前にこの子にダメ元で頼んでおいたんです。伝達でもいいからルシュフさんを呼んできてって」


悠希は親指の止血を簡単にしたあと、子うさぎの頭を撫でる。


「なるほど…人間だからと油断し、大輝の嫁候補にとその女を見ていた私の落ち度という訳か…約束通り薬は渡そう」


クロは右手をかざし、そこから手品のように薬が入った小瓶を出すと悠希へと差し出した。悠希は立ち上がってそれを受け取り、安易する。


「…安心するのはまだ早い。それを大輝に飲ませないと」


そんな悠希にルシュフは声をかける。


「はっ…そうでした。ルシュフさん、よろしくお願いします」


悠希はハッとして小瓶をルシュフへと差し出した。ルシュフは了承するかのように笑顔でそれを受け取ると直ぐにいなくなってしまう。そしてルシュフを見送ったあと悠希はというと、血のお陰で傷は癒えたものの未だ意識のないライラをこのままにはしておけないと古城へと連れていくため、背負った。


「…君も行く?」


そしてその後直ぐに悠希は子うさぎへと目を向けたが子うさぎは行かないとでもいうかのようにぴょんぴょんと跳ねて森の奥へと消えてしまい、悠希はそれを見送った。


「私は今から大輝のかわりに森の巡回をするから先に帰るといい」


クロはまるまるとしたカラスへと姿を変え、飛び去った。子うさぎのあとにそれを見送った悠希は地面へと置いた剣を拾い、なるべく急いで古城へも向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る