第13話

「っ…ユフィ!」


風圧を見て俺と同じだと思う悠希と動けなくなってしまうユフィ。そんなユフィの姿を見てレインはしまったといった表情をし、思わずユフィの名を呼び捨てにしつつ目にも止まらぬ速さで動き出した。だがレインは間に合わず、ユフィを庇うように抱きしめ倒れたのはシャロンだった。打ち合いで物凄く楽しそうにしているレインの姿を見て感情が高ぶってもしかしたら…と思ったシャロンは念の為、ユフィの側に移動をしてくれていたのだ。


「シャロン…?」


倒された際、ユフィの負担を軽減する為シャロンが手を添えてくれていたので頭や体を床に打ち付けることなく痛みで意識を失う事はなかったユフィは恐る恐るシャロンへと声をかける。


「お怪我はありませんか?」


シャロンは目を開け、黄金に輝く瞳で観察するようにユフィを見つめた。


「わ、私は大丈夫です」


ユフィはその瞳を久々に見たと思いながら答える。


「よかった…」


シャロンはその返事を聞いて安易し、微かに微笑んだ後直ぐにユフィの上から退けようと立ち上がった。


「し、師匠…」


遅れてきたレインはシャロンの姿を見て大きく目を見開いたが直ぐに今にも泣き出してしまいそうな表情をする。


「なんて顔をしていらっしゃるのですか?」


シャロンはレインがいる方向へと体を向け、呆れたような顔をする。


「っ…シャロン。貴女」


ユフィがレインのいる方を見たことで必然的にシャロンの背中を目にすることになったユフィは息を飲んだ。そしてその後直ぐに血の気の引いた真っ青な顔色へと変化する。無理もない。ユフィ視点からはわからなかったがシャロンはユフィを守った際、あの風圧を背中に受けていたのだ。故にシャロンの背中は露出し、血で濡れていた。レインにはそれが見えていたのだろう。


「すみませ…今すぐに医務室に運びます…」


レインは動揺しながらもシャロンへと近寄り、背中に負担がかからないように抱きあげようとした。


「この程度、ただのかすり傷です。貴方の任務は姫様の護衛だったはず…見たところ怪我はしておりませんが念の為、姫様を医務室へ連れていきなさい」


シャロンは負傷していても平然とした顔をしてレインから逃れるように動いた。


「し、しかし…」


動揺しているのかレインは動こうとしない。


「心を落ち着かせなさい、動揺が目に見えていますよ。レイン…姫様に何かあったらどうするのですか?」


目を開けたシャロンは真剣な眼差しでそんなレインを見た。


「すみませ…」


レインは直ぐにユフィへと近寄り、抱き上げた。


「レ、レイン…私よりシャロンを…シャロンを…」


レイン以上に動揺していたユフィは必死になって訴えるが、レインはそれを聞き入れず、足早に医務室へと向かった。


「成長したな…」


それを見送ったシャロンは目を閉じてよろけてしまう。


「シャロンさん!」


壁をよじ登ってきた悠希はそんなシャロンへと駆け寄り、支えた。


「申し訳ありません。お客様にお手を煩わせてしまいまして…」


シャロンは悠希から離れるように自分の足でたった。


「…医務室までお供しますので案内お願いします。汗臭いのは我慢してください」


シャロンは痛々しい背中を目にして悠希は上の服を脱ぎ、露出してしまっている肌や傷を隠すようにかけた。そして背中に負担がかからないように肩を貸してあげた。


「傷の方は問題ありません。見た目は派手ですがかすり傷程度ですので…どちらかというと衝撃の方が強かったらしく少々、動きにくくなっていて…それも少し横になれば解消できます。ですので医務室には今、姫様達が向かわれたのもありますし、医務室ではなく自室へ…」


シャロンは悠希にもたれかかるようにたつ。


「わかりました!自室ですね!でも場所が分からないので案内お願いします!」


悠希は元気よく返事をし、大きく頷いた。そんな悠希の反応にシャロンは微かに笑ったあと、案内するようにゆっくり歩き始めた。悠希はそんなシャロンの歩幅に合わせるように動き出し、時間をかけてシャロンの自室へと向かった。


「…し、失礼します」


部屋について早々、悠希は扉を開けた。部屋の中は使用人が使うには少し豪華な作りになっていて家具はシンプルだが見るからに上質な物だった。中に入った悠希は近くの椅子にシャロンを座らせるとシャロンの指示通りの場所にあった棚から救急箱を取り、背中の治療をし始めた。傷は先程シャロンが言った通り出血は多いもののかすり傷程度で、悠希はきちんと止血したあとで消毒をし、ガーゼを当ててテープ止めをした。


「……これで大丈夫です」


悠希は救急箱に使った物をしまいながらシャロンに向かって声をかける。


「ありがとうございます。助かりました」


シャロンがお礼を言いながら悠希へと顔を向けると悠希は救急箱を持って移動をし始めた。


「レインさんのあの技は…?」


救急箱を元の場所に戻した悠希ら問いかけながらシャロンへと目を向ける。


「……竜と退治するための技の一つです。空中にいられては攻撃できませんので…貴方もその使い手でしょう?」


シャロンは唐突に服を脱ぎ始めた。


「っ…りゅ、竜?」


悠希は慌てて目を逸らすようにシャロンへと背を向けた。


「とぼえても無駄です。貴方の戦い方は竜族に鍛えられたものだと見ていればわかります」


クローゼットからメイド服を取り出し、着用したシャロンはクローゼットの奥の方に入っていた箱の中から男物の服を取り出した。そしてそのあと悠希へと近づいたシャロンは黄金色の瞳を見せつけるように悠希の顔を覗き込みつつ、着用しろと言わんばかりに男物の服を押し付けるように差し出した。


「その目は竜族の…竜族のシャロンさんがいうならそうなのかもしれません。俺は両親がいなくて師匠である人に育てられました…ってあれ?」


服を受け取り、着用した悠希はシャロンの目を見てはっとした。シャロンが言っていることが本当なのだとしたら父と慕っている剣の師は竜族もしくは竜族に関わりがあるからだ。


「あ、あの…目を閉じていますけどそれって竜族なら誰でもなんですか?」


悠希はその後、シャロンに向かって問いかける。


「いいえ。誰でもという訳ではありません。私の場合、神隠しにあってこの世界に来てしまいました。いわばよそ者だったのです。そこを心優しき方が私をこの国の民と認め、その方の口利きでこの城で勤めるようになりました。そして恐らくこの世界にいる竜族は私だけですので浮いたりしないようになるべく目を閉じているのです。目を閉じていても方向感覚はある程度掴めますので…」


シャロンは顔を覗き込むのを止めるように目を閉じ、悠希から少しだけ離れた。それを聞いた悠希はなるほどと納得すると同時に父の種族を知らなかったと少しだけ落ち込んでしまう。


「……ではお部屋の方に戻りましょう。案内致します」


シャロンはそんな悠希に声をかけたあと、動き出した。


「っ…体は大丈夫なんですか…?」


悠希は慌てて静止するようにシャロンの手を掴んだ。


「先程よりは動けるようになりましたので平気です」


シャロンはだから手を離して欲しいと言葉を続け、自分の手を掴んでいる悠希の手へと目を向ける。


「いやいや。それでも安静にしていないと…何かあってからでは遅いです」


悠希は手を引いてベッドへと近寄り、強制的にシャロンをベッドへと座らせた。


「ですが…」


シャロンは一人で大丈夫なのかと心配そうな顔をする。


「問題ないです!一人で部屋に戻ってみます!」


悠希は自信満々に答えたあと、胸をはった。


「……わかりました。ですご一つ条件がございます」


シャロンは諦めたように小さく息を吐いたあと、うっすらと目を開ける。


「条件…?」


悠希はシャロンが諦めたことで手を離した。


「条件と言いますかお願いです。帰っても時間があったらでいいのでレインと打ち合いをしに来て欲しいのです」


シャロンは真剣な眼差しで悠希を見つめた。


「それなら全然」


悠希は了承するように何度も頷いた。


「よかった…彼は昔から忠誠心が強いのでたまには肩の力を抜いて欲しいから…だからよろしく頼む」


シャロンはほっとしたような表情をし、砕けた口調になった。


「はい!よろしくお願いされます!」


悠希は口調が砕けてくれて嬉しいのかにっこりと微笑んだ。その返事を聞いたシャロンは安心したように目を閉じる。


「それじゃ失礼しますね!しっかり休んでください!」


悠希はそういうと部屋から出て歩き出した。だがレインとシャロンの関係性を考えながら広い城内を歩いていたことにより、悠希は早々に迷ってしまった。

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