第4話
おつかいで別の世界へ渡った筈の悠希は困惑したように辺りを見渡した。
「ど、どうしよう…琅がいない…もしかして来る世界間違えた?」
悠希は辺りを見渡すことを止め、不安そうにする。目の前には大きな城があり、悠希の周囲には噴水や色とりどりの花が植えられている花壇等があったが、琅の姿は何処にもなかった。
「そ、そうだ!一回戻ればいいんだ!」
悠希は思いついたように声を上げたあと、目を閉じた。
「何者だ!」
だが悠希が月華たちの元へと行きたいと強く願おうとした直後、そう言った声と共に複数の足音が聞こえた。その声や足音に反応して悠希は目を開け、思わず息を飲んだ。武装し、自分に剣を突きつけた吸血鬼たちに囲まれていたからだ。そんな状況に悠希はガントレットから剣を取り出して応戦しようとしたが剣は出現しなかった為、焦り始める。
「お待ちなさい」
そんな時、吸血鬼たちを制止する女性の声が聞こえてきた。
「無闇に人を疑ってはいけません。剣を納めなさい」
悠希と吸血鬼たちが声のした方向へと目を向けるとそこにはドレスを身に纏った女性がいて、女性は言葉を続けながらこちらへと近づいてくる。
「なっ!お下がりください!殿下!」
近づいてくる女性を見て一人の吸血鬼が焦ったように叫んだ。
「下がるのは貴方がたです。この若者は見たところ軽装で害があるように見えません。武装している貴方がたがいきなり取り囲んでは怯えてしまいます」
悠希たちのすぐ近くで立ち止まった女性はじっと吸血鬼たちを見つめる。
「お、お言葉を返すようですが今は厳戒態勢が敷かれており、城の敷地内に許可なく立ち入った者を捕らえろとの命令が下されております!例え軽装だったとしても命令は命令なのです!」
そんな女性に向かって一人の吸血鬼が控えめに声を上げる。
「…忠実な兵を持った私は幸せ者ですね。では私が直に命を下します。直ちに武器を下ろし、持ち場に戻りなさい」
女性は吸血鬼たちに向かって一度にっこりと微笑んだあと、真剣な顔つきで吸血鬼たちを見つめた。
「し、しかし…」
吸血鬼たちは心配そうに女性のことを見つめた。
「ありがとう。私のことを心配してくださるのですね。ですが大丈夫です。あそこにレインが控えておりますから」
女性が悠希たちの背後を手で示すと息を飲む程の美貌を持つ男の吸血鬼、レインがいた。
「だ、団長がいらっしゃるのでしたらだいですね!我々は失礼致します!」
悠希を取り囲む吸血鬼たちはレインの姿を目にして頬を赤く染め、足早に持ち場へと戻っていった。
「…ユフィ姫。この者、やはり琅の知り合いだそうです」
吸血鬼たちがいなくなってから女性へと近づき、隣にくるなり立ち止まったレインは女性、ユフィへと耳打ちをする形で報告をした。
「そうでしたか…契約者様。この度は我が国の兵たちがご無礼を働きました。お許しください」
ユフィは謝罪の言葉を口にしながら頭を下げようとしたがそれを阻止するようにレインがユフィの額へと手を添えた。ユフィは何をするのかとレインへと目を向ける。
「……一国の姫が簡単に頭を下げるものではありません」
レインはそんなユフィのことを無表情で見つめながら手を離した。
「そ、そうですよ!勝手に入っちゃったのは俺なんで謝る必要なんてないです!」
ぼぉーっとユフィのことを見ていた悠希はそんな二人のやり取りを見て我に返り、慌てたように声を上げた。
「…ありがとうございます」
ユフィはそんな悠希に対して柔らかく微笑んだ。
「…あ!あの…俺、薬を貰ってくるように頼まれたんですけどわかりしますか?」
悠希は目的を思い出し、首を傾げる。
「わかるにはわかる。だが…」
その問いに答えながらもレインは一瞬だけ表情を崩した。
「?…何か問題でも?」
そんなレインの表情を見逃さなかった悠希は首を傾げたまま不思議そうな顔をしてレインのことを見つめる。
「そちらに割ける在庫がない。そして作成するにも即位式が控えているのでそこに人員を割けない」
レインは悠希を見つめ、答えた。
「なるほど。どうしよう…」
お城だし、いつもより警備が厳重であるが為にここにきて早々、よそ者である自分は兵に囲まれてしまったのかと納得した悠希は首を傾げることを止め、困ったような顔をする。
「……ちなみに琅さんはどこに?」
そしてその後直ぐに悠希はどうすればいいかを聞こうと辺りを見渡し、琅がいないかを確認した。だが近くに琅の姿はなく悠希は直ぐに辺りを見渡すことを止めてしまう。
「彼なら私たちの前に姿を現した後直ぐに共に来た筈の貴方がいないことに気がついて置いてきてしまったのかとお戻りになられました。私たちは念の為、貴方がいないかを探し回っていた所なのです」
ユフィはそんな悠希に向かって答えた。
「……そうですか。わかりました。心配していると思うので一度帰って今後のことを聞いてきます。お騒がせしてすみません」
悠希はユフィたちに向かって深々と頭を下げた。
「今後来る時があったら私の元へと願うがいい。私は基本的に一人だからいきなり現れても問題にはならない」
レインは悠希へと近寄り、顎に手を添えて頭を上げさせたあと、じっと悠希を見つめながら口を開いた。
「はい!わかりました!」
悠希は元気よく返事をし、その返事を聞いたレインは悠希の顎から手を離した。そしてその後直ぐに悠希は目を閉じ、琅の元へと強く願った。すると眩い光と共に悠希は姿を消してしまう。
「別に私の目の前でもよかったのに…」
悠希を見送ったユフィはレインへと近寄る。
「……馬鹿なことをおっしゃらないでくだい。貴方は女性なのですから着替え中に訪れたら嫌な思いをするでしょう?」
レインは呆れたように溜息をついた。
「私の瞬発力を舐めていらっしゃるの?」
レインの目の前にたったユフィはムッとする。
「舐めてはいません。ですが万が一にということもあります」
レインはユフィから目を逸らすように背を向けた。
「……その反応はまだ私にも望みがあるということ?」
ユフィはレインの服の袖を掴もうとした。しかしレインはそれを避ける。
「……王配候補がもう時期来ます。なのでお早めにお決め下さい。即位式の為に」
そのあとユフィの顔をチラ見するように見たレインへ足早に去っていった。
「レイン…私は…」
そんなレインの後ろ姿を切な表情で見送るとユフィは俯いてしまったのだった。
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