第1話

お昼頃。悠希は月華と遊ぶ為に天月達が住む古城の前にいた。


「……前は普通に出入りしちゃってたけど今はお客様なんだよな…ノックしても応答ないし、どうやって入ろう?無断で入るのも気が引けるし」


悠希は難しい顔をして古城を見つめ、顎に手を当てて考え始める。


「扉を開けて大きな声を出せば聞こえるかな?琅さんがいたら聞こえるだろうし…でも琅さんいなかったら大きな城だし、誰にも届かない可能性もあるよね…どうしよ…っ!」


考えていたことをぶつぶつと口にしていた悠希だったが、何かの気配に気がついて勢いよく振り返る。


「……どちら様っすか?」


悠希が振り返った先には大輝とロマリアの姿があって大輝は、悠希のことを視界にとらえるなり首を傾げる。


「えー!なんで人間がいるのさ!まさかボクの空を取る気?そうなんだね?そうなんでしょう!そんなの許さないんだから!」


噂のせいで人が立ち寄らない場所に来た大輝たちを見て戸惑う悠希。そんな悠希を大輝の後ろに立って見ていたロマリアはプリプリと可愛らしく怒りながらズカズカと悠希へと近づいていく。


「待て待て待て待て」


大輝はそんなロマリアの首根っこを掴んだ。


「なんで邪魔するのさ!」


ロマリアは邪魔をされてムッとし、鋭い目付きを大輝へと向ける。


「周囲の動物たちはちゃんといるし、ザワついてもいないっす。それにクロも騒がないし、悪い人じゃないっすよ」


大輝は辺りを見渡したあと、肩に乗る烏…クロを見てからロマリアへと目を向ける。


「悪い人じゃない…?あんな目でボクのことを見ているのに?」


ロマリアが悠希へと目を向けると悠希は、清香を狙った吸血鬼なのではないかと警戒する様にロマリアのことを見つめていた。


「……日頃の行いが悪いからっすよ」


大輝は悠希の姿を確認したあと、冷めた目でロマリアのことを見た。


「あの…俺たち此処の住人なんっすけど何かご用っすか?」


首根っこを掴まれたままぎゃーぎゃーと騒ぎ出すロマリア。そんなロマリアを気にすることなく大輝は悠希へと問いかける。


「住人なんですか?でもこの前はいなかった…」


悠希は困惑したように大輝たちを見つめる。


「この前…?あ、もしかして貴方っすか?神隠しにあったけど契約者で帰ったっていうのは…」



大輝は少しだけ考える素振りを見せたあと、じっと悠希を見つめる。


「え、あ、はい。そうですけど…」


悠希は大輝の問いかけに素直に答えた。


「あ、やっぱり!そういう人がいるって情報は入ってきてたんっすけど、俺たち出稼ぎ組でいなかったんっすよ。そっか…貴方が悠希っすね。俺は大輝。呼び捨てでかまわないっす。そしてこっちはロマリアっす。よろしくっす」


大輝は悠希の返事を聞いてにっこりと微笑み、ロマリアを離して悠希へと近づいていき、手を出した。


「よろしくお願いします」


悠希は大輝の手を取り、握手をした。


「それで今日は何の用っすか?」


大輝は悠希の手を離し、首を傾げる。


「遊びに来たんです。ケーキも持ってきました…でも入っていいのかわからなくて…」


悠希は大輝にケーキの入った箱を見せた。


「なんだ…それなら勝手に入ってくれてよかったんっすよ?入った瞬間、ルシュフさんとか主とか気配を察して気づいてくれるっすから。さぁ!入って入って…っ!」


箱を見て大輝は悠希の申し出に微笑み、扉へと近寄った。そして扉を開けたが直ぐに表情を歪め、鼻を塞ぐように腕で覆ったのである。


「どうかしました?」


そんな大輝を見た悠希は大輝へと近寄っていく。


「甘ったるい匂いが充満し…っクロ!悠希のことを頼むっす!」


大輝は悠希に返答しながらもロマリアがいなくなっていることに気が付き、一瞬にして姿を消した。


「どうしたんだろう?甘い匂いなんてしないのに…」


悠希は一瞬にして消えた大輝に動じることなく不思議そうな顔をし、そんな悠希の頭の上にクロは乗ったのだった。

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