第二幕
プロローグ
「……ありがとね。これがあると痛みが和らぐんだよ」
自然豊かな田舎町から少し離れた場所にあるこじんまりとした建物の中で、紙袋を受け取った一人の老婆が涙ながら頭を下げた。
「頭をあげてください。お婆さん。よくなるといいですね」
そんな老婆に向かって声をかけたのは肩に一羽のまるまるとした烏を乗せ、カウンター越しに老婆の前にたっていた青年で青年は老婆の頭を優しい手つきであげさせる。
「また痛みが出るようでしたら一ヶ月後に来てください。新しい薬湯を用意しておくので」
青年は老婆に向かってにっこりと微笑みかける。
「わかったよ。本当にありがとね」
老婆はそう言うと杖をつきながらゆっくりとした動作で建物から出ていった。
「……あの人間は確かに腰痛だっけ?」
老婆がいなくなった事で黒色の前髪をかきながら一息つく青年に向かって声をかけながら一人の幼女が少し長めのブロンドヘアを揺らしながら奥から出てきた。
「そうっすよ。てか出てくるなっす。誰か来て見られたらどうするんっすか!」
青年は声に反応して幼女へと目を向ける。
「誰か来たら直ぐに気づけるから平気だもん!大輝と一緒にしないでよ!」
幼女は青年…大輝を赤黒い瞳で馬鹿にしたように見つめ、べーっと舌を出した。
「……ヤバいっす。こいつのこと無性に殴りたくなってきたっす」
大輝は拳を強く握りしめることで怒りを抑える。
「ねぇーねぇー。それよりさー。生活費もそれなりに稼いだし、売る薬もほぼ完売したし帰ろよー」
幼女はそんな大輝の腕に抱きつき、甘えるような仕草を見せる。
「触るなっす!気色悪い!」
大輝はそんな幼女の頭に拳骨を食らわせ、それをもろに食らった幼女は頭を両手で押さえてしゃがみこみ、痛みに悶える。
「何やってんの…?」
文句の一つも言ってやろうと幼女が涙目で大輝を見ると大輝は肩に乗せていた烏を一度カウンターの上へ乗せ、使った物を片付け始めていた。それを見た幼女は不審そうに大輝を見つめる。
「帰るんっすよね?本当は全部売りきってから帰りたかったけどお前、俺の大事な物捨てたっすよね?これ以上ここにいると周りに迷惑かけるっすからね。帰る準備してるんっすよ」
大輝は苛立ったように答えながら持ち帰る物を鞄に詰め込み始めた。
「…ほら。帰るっすよ。ロマリア」
全てを詰め込み、鞄を手に持った大輝は烏を乗せたあと幼女のことをロマリアと呼び、目を向ける。
「うん!帰る!帰って頑張ったご褒美貰うんだ!」
ロマリアは帰れることが嬉しいのか頭から手を離してウキウキし、大輝はそんなロマリアを見て呆れたように溜息をついたのだった。
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