第16話

深夜過ぎ。大きな爆発音のせいで悠希は目を覚まし慌てたように上体を起こした。


「何!何があったの!」


悠希は慌てたように辺りを見渡すが、部屋の中は蝋燭の火が揺らめいているだけでシーンっと静まり返っていて爆発の痕跡などはない。


「夢…?いや。でも外で何か…」


悠希は辺りを見渡すことを止め、困惑したように呟いた。


「…ど、したの?」


悠希の呟きに反応するかのように清香は目を覚まし、ゆっくりと上体を起こす。


「…なんか爆発する音が聞こえてきた気がするんだ」


悠希は清香へと目を向け、答える。


「え、爆発!」


清香はまだ完全に目覚めていなかったのか眠たそうな目をしていたが悠希の返答を聞いて完全に目を覚ます。


「……もしかして清香さんを追って吸血鬼が報復に来たのかもしれない。天月さんはその事を知っていて危険だから少しは考えて外出許可を直ぐに断ったのかも…そういうことなら明日の朝まで部屋に閉じ籠ってろっていったのも納得できる」


悠希は少し考える素振りを見せたあと、真剣な眼差しで清香のことを見つめる。


「っ…私の、せい…?私が逃げたりなんかしたから…?」


清香は悠希の言葉を聞いて今にも泣き出してしまいそうな表情をする。


「納得できるっていってもまだ決まったわけじゃないし、君が泣きそうになることなんてないよ。俺が見てくるから此処で待ってて」


悠希は清香の表情を見て軽率な発言だったと反省しながら安心させるようにそういい、立ち上がる。


「待って…私も行く。私のせいなら私も行かないと」


清香は慌てたように悠希の服を掴んだ。


「……わかった。一緒に行こう」


悠希は服を掴まれたことで清香が恐怖から震えていることに気がついていたが決意じみた表情をしている清香の申し出を断ることができず、頷いた。それを見た清香は悠希の服を離して立ち上がり、悠希は部屋の外へ出ようと扉へと近づいていく。


「っ…わっ!いてっ!」


そしてドアノブにてをかけた瞬間、手にピリッとした痛みが走ったかと思うと悠希は後方へと勢いよく吹き飛ばされ、その先にあった机へと打ち付ける。その際、悠希は受け身を取ったので痛みはそれほどでもなかったものの机が揺れたことによりその上に置いてあった写真立てが頭に落ちてきたため、痛そうな顔をする。


「だ、大丈夫ですかっ!」


清香はそんな悠希へと慌てて駆け寄り、顔を覗き込んで心配そうに見つめる。


「大丈夫。剣の稽古で慣れてるから」


悠希は頭を擦りながら答え、落ちてきた写真立てを手に取り目にする。


「そうか…だからお姉ちゃんだったのか…」


そこには七色に輝く翼を持ち、とても楽しそうに笑い少女とそんな少女のことを眼鏡を外し、緑色の瞳で愛しそう見つめる天月が写っていて悠希はその写真を見るなり独り言のように呟いた。


「お姉ちゃん?」


その独り言を聞いて清香は写真を見る。


「…何でもない。それよりどうしよう?恐らくだけどこの部屋から出られないのは魔術のせいだ」


悠希は立ち上がって机の上に写真立てを置き、扉を見る。


「魔術?」


清香は聞きなれない言葉に首を傾げる。


「うん…俺も始めてみるから絶対に魔術だって言いきれないけど、さっき俺たちを眠らせるために使ったのは瞳の色からして魔法ではなく魔術だと思う。そしてその魔術はこの部屋にもかけられていて俺たちは天月さんが帰ってくるまでこの部屋からは出られない」 


悠希は清香へと目を向け、答える。


「そんな…それじゃどうしたら…」


清香にとって魔法や魔術などわからない単語ばかりだったが先ほど吹き飛ばされた悠希の姿を目にしているため、清香は知らないことばかりだけど部屋から出られないのは事実なのだと俯いてしまう。


「……手ならあるよ」


悠希はそんな清香を見て少しだけ考える素振りを見せたあと、小さな声で呟いた。


「あるの…?」


悠希の呟きを聞き逃さなかった清香は顔を上げ、悠希を見つめる。


「うん…困っている人がいて助けたくても自分の力じゃどうしようも出来ない時に使いなさいって園長から…育ての親から言われているんだ。でもこれをすると君は絶対に気味悪がると思う」


悠希は首にかかったネックレスを握りしめ、どこか悲しげな表情をする。


「気味悪がったりしないよ!部屋から出るためにお願いします!」


清香はそんな悠希の表情に気づくことなく頭を深々と下げる。


「……わかった」


悠希はそう言うと一息つき、ネックレスから手を離しその手で左手の手袋を外した。


「ひっ…」


悠希の返事を聞いて頭を上げていた清香は悠希の左手の甲を見て思わず声を上げ、口を両手で覆った。


「……やっぱりそういう反応するんだよね。これのせいで親に捨てられたのも納得だ」


悠希は清香の反応を見て切なげに笑い、首にかかっているネックレスを外した。


「そう見えたのならごめんなさい…気味悪いとかじゃなくて痛くないのかなって思って」


清香はそんな悠希の姿を見てばつが悪そうにしながら口から手を離し、心配そうに問いかける。


「痛くないよ。今からすることはもしかしたら痛いかもしれないけど」


悠希はネックレスの剣の部分を握りしめる。そして一息ついたあと悠希は覚悟を決めたようにその手を振りかざし、左手の甲にある結晶に向かって剣が刺さるように手を降り下ろしたのである。その直後、結晶が眩い光を放ちその光を見て悠希と清香は思わず目を閉じる。


「…え?なんだよ。これ」


光がおさまったかと悠希が恐る恐る目を開けると光はおさまっていて悠希は視界に入ったものを見て困惑した。左手の甲にあった結晶は形を変え、ガントレットになって左手に装着されていて結晶に突き刺したネックレスの剣は悠希の体格にあうように大きくなり、ネックれるのと…は小さくてわからなかったが形状は刀のような洋風の剣だった。


「何がどうなっているのかわからないけど…これで斬れってことなのかな?」


悠希は戸惑いながら大きくなった剣を両手で握った。


「……ものは試しだ。ごめんなさい。天月さん!」


悠希は扉へと近づいていき、剣で扉を斬った。すると扉は天月がかけた魔術と共に真っ二つになって倒れる。


「斬れた。ネックレスなのに…」


悠希は真っ二つになった扉を見たあと、剣へと目を向ける。


「やったぁ!これで外に出られますね!」


真っ二つになった扉を見て清香はそんな悠希へと近寄り、にっこりと微笑んだ。


「うん…そうだね。行こう」


悠希は考えるのはあとだと首を横に振り、剣を右手で持って走り出し部屋から出ていった。そんな悠希のあとを追うように清香も部屋から出ていったのだった。

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