第14話
月華が遊び疲れて眠るまで遊んであげたあと悠希は空に頼み込んで一人、調理室にいた。誰にも見られていないということで手袋を外している悠希は集中し、慣れた手つきでクッキー作りをしているがたまに何かを考えているのか難しそうな顔をしている。
「っ!」
クッキーが焼き上がった頃、何かの気配を感じ取ったのか悠希はクッキーを取り出す際にキッチンミトンを装着していたにも関わらず、反射的に左手を背中に隠しながら勢いよく振り返った。
「ご、ごめんなさい…いい匂いがしたから」
悠希が振り返った先にいたのは清香で、清香は先程の件もありキッチンの中へと入ってこようとせず出入り口に隠れるようにたっており、お腹を手で押さえている。
「……ちょっとそこで待ってて」
悠希は清香に向かってそう言うとキッチンミトンを外しながら調理台へと目を向け、何かを作り始める。
「……お腹の足しになるかわからないけど」
調理を終えて手袋をした悠希はメイプルシロップのかかったふわふわのパンケーキを清香に向かって差し出した。
「食べて、いいの…?」
パンケーキを見て悠希へと近づいていった清香はパンケーキと悠希を交互に見、控えめに呟く。
「うん。だって昨日から何も食べてないでしょ?だから食べていいよ」
悠希は頷いたあと、にっこりと微笑んだ。
「っ…いただきます」
清香は悠希からパンケーキが乗った皿とフォークを受け取り、たったまま食べ始める。
「美味しい?」
お湯が沸いたのか悠希は清香のために紅茶を煎れながら問いかけ、その問いかけに清香は口いっぱいにパンケーキを頬張っているために何度も頷く形で答える。
「そう…それはよかった。紅茶煎れたからお好みで入れて火傷しないように飲んでね」
悠希は調理台に置いた紅茶や砂糖、ミルクなどを清香に見せ、清香は口をモグモグさせながら頷く。
「…あり、がと…甘いものなんて久々に食べたから美味しかった」
パンケーキを食べ終わり、紅茶に少量の砂糖を入れて飲み始めた清香は後片付けをしている悠希の後ろ姿を見つめ、呟く。
「久々なの…?」
ちょうど片付けを終えて手袋していた悠希は清香へと目を向け、首を傾げる。
「うん…血の気の多いものばかり食べさせられてたから」
清香は答えながら小さく頷く。
「そんな…甘いものは元気の源なのに…」
清香の返事を聞いて悠希は悲しそうな表情をする。
「私の血は特殊らしくて吸血鬼にとっては極上の味なんだって…それでいきなり誘拐されて血にならない物は食べされて貰えなかった。だから甘いもの、久しぶりだったんだ」
清香はカップを包み込むように持つ両手に力を込め、辛そうな顔をする。
「そっか…大変だったね」
悠希はそんな清香の頭に手を乗せ、優しい手つきで撫でる。
「うん…でもライトがいてくれたから心細くはなかったわ」
清香は大人しく頭を撫でさせながら悠希のことを見つめる。
「ライト…?」
悠希は頭を撫で続けながら首を傾げる。
「吸血鬼と人間のハーフで人間の血が混ざっているから冷遇されている人なの…でも私にはとてもよくしてくれて何度も私のことを逃がそうとしてくれたわ」
清香はライトとの日々を思い出し、微かに微笑んで穏やかそうな顔をする。
「一人は怖くて毎回連れ戻されちゃったけど、今回は私と一緒に逃げてくれるって言ってくれたの。でもその途中で見つかってしまって昨日の吸血鬼を足止めするためにライトは…」
清香は穏やかな顔から一変、暗い顔をする。
「大丈夫。きっと逃げて無事だよ」
悠希はそんな清香の頭を撫で続け、安心させようとする。
「私もライトは逃げて無事だって信じたい!でも心配なの!捕まって拷問を受けているんじゃないかって…殺されちゃったんじゃないかって…あの吸血鬼はそういうこと平気でするから」
だが悠希の言葉は逆効果だったのか清香は叫び、その後俯いて泣き始めてしまう。
「……ライト君のことが好きなんだね」
清香の叫び声に思わず頭から手を離し、少しの間泣いている清香の姿を見つめていた悠希は呟いた。
「…好、き…?」
清香は悠希の言葉を聞いて声をもらしながら顔を上げ、首を傾げる。
「うん。自分の身を守ってくれた人のことを心配するのは当たり前のことだけど…君はそのライト君に恋をしているようにみえるんだよね」
悠希はそんな清香に向かってにっこりと微笑んだ。
「私がライトを好き…?」
清香は悠希に指摘されたことで自分の気持ちを自覚し、急激に頬を赤く染める。
「…それじゃ行こうか」
そんな清香に悠希は声をかけながら先程作ったクッキーが乗った皿を持つ。
「え…行くって何処に?」
清香は真っ赤になった顔で不思議そうに悠希のことを見つめる。
「まずはクッキーを食堂にに置きに行こう。そのあとでライト君の安否を確認するために外出許可を取りに行くんだ。天月さんに…」
悠希は真剣な顔つきで清香のことを見つめる。
「許可が必要なの…?なら行くわ。天月さんって人がどんな人かあったことがないからわからないけどライトのために私、行く」
清香は紅茶を一気に飲み終え、空になったカップを調理台に置いた。
「よし。それじゃ行こう」
悠希は清香の返事を聞いてにっこりと微笑んだあと、調理室から出ようと歩き出す。
「あ、そうだ。名前なのってなかったよね?俺は悠希。君は?」
悠希は思い出したかのように歩みを止め、自分のあとを追って行だしていた清香へと目を向ける。
「清香よ」
悠希が振り返ったことにより立ち止まった清香は自分の名前を名乗ったのだった。
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