第13話

約束の場所についた空は座って悠希のことを待ち、月華はそんな空の腕の中にいる形で悠希のことを待っていた。


「お待たせ!」


そこへ軽く息を切らした悠希が部屋の中へと入ってくる。


「悠希お兄ちゃん!」


月華は悠希の声に反応して立ち上がり、駆け寄っていって飛び付くように悠希へと抱きついた。


「待たせたね。何して遊ぶ?」


悠希はそんな月華の頭を優しい手つきで撫でる。


「ボールとかで遊びたいけど煩くしちゃうとルシュフお兄ちゃん起きちゃうからチャンバラにする!」


月華はチラッとルシュフがいる方向を見たあと、悠希へと目を向けて答える。ルシュフは月華たちから少し離れた所で無防備に眠っている。


「…わかった。それじゃぁ昨日使った剣の玩具を三つ持ってきてくれるかな?」


ルシュフの姿を確認した悠希は月華のことを見つめ、にっこりと微笑む。


「わかった!」


月華は元気よく返事をすると駆け足で収納箱へと近づいていく。


「……悠希くんってもしかして子供に好かれるタイプですか?」


そんな月華と入れ替わる形で悠希へと近づいてきた空は悠希の目の前で立ち止まるなり、問いかけながら首を傾げる。


「うん。昔から小さい子に好かれるみたいで…子供好きだから凄く嬉しいんです」


悠希はにっこりと微笑みながら空の頭へと手を伸ばし、撫でる。


「なるほど。だから琅さん…月華のお父さんじゃないと泣き止まない月華が泣き止んだのも納得です。悠希くんの人望の賜物ですね」


空は首を傾げることを止め、にっこりと微笑み返す。


「……でもね。悠希くん。僕も悠希くんのこと好きですけど子供って訳じゃないんですよ。これでも悠希くんより年上です」


空の言葉を聞いて照れる悠希。空は頭を撫でられて満更でもないといった表情をしながらもそんな悠希に向かって抗議の声をあげる。


「え、あ、ごめん!てっきり年下かと…」


悠希は空があげた抗議の声に慌てた様子で頭から手を離す。


「子供だって間違われるのはいつものことだし、それに頭撫でられるの嫌いじゃないんで大丈夫ですよ」


空は頭を撫でられたことによって乱れた髪を手櫛で整える。


「持ってきたよ!」


空の言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす悠希。そんな悠希に向かって三つの玩具の剣を抱えるように持った月華が近づいてきて声をかける。


「ありがとう」


悠希はそんな月華の視線に自分の視線を合わせるようにしゃがみこみ、にっこりと微笑んで頭を撫でる。


「それじゃぁ一つは空くん。もう一つは俺にくれるかな?」


頭を撫でられて嬉しそうな顔をする月華。そんな月華に悠希は言葉を続ける。


「えーっと…僕もですか?」


月華は悠希の指示通りに剣を渡し、渡された空は困惑したように剣と悠希を交互に見た。


「うん。だって皆でやった方が楽しいもん」


月華から剣を受け取ったあと、立ち上がってストレッチをしていた悠希は空に向かってにっこりと微笑んだ。悠希の言葉を聞いて空はやったことがないのか不安そうな顔をして剣を見つめる。


「…さ。二人いっぺんにかかってきていいよ。俺に剣を当てることができたら月華ちゃんたちの勝ちだ」


悠希はにっこりと微笑んだままハンデのつもりでその場に正座をした。


「うん。わかった」


月華は剣を両手に持ち、真剣な表情をして悠希へと向かっていくが悠希はそれを意図も簡単に受け止め、押し返してしまう。


「やぁっ!」


何度も攻防が続き、その攻防を不安そうに見ているだけだった空は意を決したのか、悠希が月華の剣を押し返している時を狙って掛け声と共に悠希へと向かっていった。だが悠希は月華を押し返したあと、空の剣をきっちり受け止めて押し返す。


「…っ!」


何度も悠希に向かっていく月華と空。とても真剣な顔をして集中し、空と月華の相手をする悠希。そんな悠希の背後から悠希を狙うように剣が振り落とされる。剣は悠希たちが使っているものと同じ玩具の剣で悠希は自分に向かって振り落とされることに殺気を感じて気がついたのか月華と空の剣を少し強めに押し返し、その後立ち上がりながら勢いよく振り返ってその剣を持っていた剣で受け止める。


「っ…ルシュフさんだったんですかっ!すいませんっ!」


悠希に向かって剣を降り下ろしたのはいつの間にか目を覚ましたルシュフで、悠希が振るう剣は勢いがあったのかルシュフの頬に風圧で傷を作り、それを見た悠希の集中力は解かれて慌てながら剣をおろし、深々と頭を下げる。


「……問題ないよ。月華たちを勝たせようとして不意打ちをした私が悪いんだし」


ルシュフは傷ついた頬に触れ、指先で血を拭うと傷は既に塞がっている。


「い、いえ!俺も悪かったんです!よく園長が不意打ちでしてくるから癖で反撃に出て…本当に申し訳ありませんでした!」


悠希は頭を深々と下げたまま申し訳なさそうにしている。


「顔あげて。気にしていないから」


ルシュフは指についた血を舐める。


「……申し訳ないと思うなら私の相手をしてくれないかな?剣を扱う者がいなくていつも一人で稽古しているんだ」


顔をあげるが申し訳なさそうにし続ける悠希。そんな悠希に向かって提案するようにルシュフに問いかける。


「相手したいけど…」


月華と約束している悠希は控えめに月華へと目を向ける。


「いいよ!月華、空ちゃんとチャンバラしてる!」


月華はそんな悠希に向かってにっこりと微笑む。


「ごめんね。また遊んであげるからね」


悠希はにっこりと微笑み返して月華の頭を優しい手つきで撫でる。


「……ルシュフさん。少し離れましょう」


頭を撫でられて満足そうな顔をする月華を見て悠希はホッとしたあと、微笑むことを止めてルシュフへと目を向ける。


「そうだね」


ルシュフは頷いて月華たちから離れていき、そんなルシュフのあとを悠希はついていく。


「……それでどうしますか?月華ちゃんたちの相手をしていた時みたいに俺は受けに徹すればいいですか?」             


月華たちからある程度離れた悠希とルシュフ。悠希はルシュフのことを見つめながら問いかけ、首を傾げる。


「出来れば打ち合いたいかな」


ルシュフは答えながら髪を一つに束ね始める。


「わかりました。打ち合いですね」


悠希は剣を両手に持ち、かまえる。


「…勝負は一本で先に相手の体に当てた方が勝ち。有利になりたくないから吸血鬼特有の速さでかかっていかないから安心して」


髪を一つに束ね終えたルシュフはにっこりと微笑んで剣を片手で持ち、かまえた。そしてその後すぐに真顔になり、悠希へと突きを繰り出したのである。だが悠希は剣で受けて押し返し、その後ルシュフに斬りかかる。ルシュフは悠希の剣を自分の剣に当てて受け流し、また突きを繰り出す。そして悠希はルシュフからくる全ての攻撃を受け止めて押し返すかかわすかしてから冷静に見極めてルシュフへと攻撃をしかけ、ルシュフはそんな悠希の攻撃を剣で受け流しつつ突きを繰り出し続けた。その行為が何度も繰り返された結果、楽しそうにしながらもなかなか当てることが出来ないということで少しだけむきになったルシュフは更に攻め込もうと一歩踏み出して悠希の腕を狙い、連続で突きを繰り出した。悠希は今回も受け止めるかかわすかするが一撃だけ受けてしまう。


「ははっ…俺、負けちゃった…」


少しだけ息を乱した悠希は剣を当てられた腕を撫でながら残念そうに呟いた。


「……あの」


「失礼。ルシュフさんいますか?」


悠希よりも息を乱したルシュフがそんな悠希に声をかけようとした時、天月の声とノック音と共に天月が部屋の中へと入ってくる。


「いるけどなんだい?天月」


ルシュフは天月へと目を向け、首を傾げる。


「……昨日、ここに来た子がここのことを化物が住む古城だと口にしたとリースから報告をうけたんだ」


天月は深刻そうな顔をしてルシュフへと近づいていく。


「え、昨日の子ってまさかこの若者と一緒に来た女の子のことかい?」


ルシュフは天月の言葉を聞いて大きく目を見開く。


「うん」


ルシュフの目の前で立ち止まった天月は大きく頷いて返事をした。


「っ…それはすまないことをした。吸血鬼から助け、ここに行くように指示をしたのは私だ。まさかこの世界の人間だったとは…話というのはこれからの対策だね?」


目を細めたルシュフは申し訳なさそうな顔をする。


「そうだよ。ここだと月華が不安になるから僕の部屋で話をしよう」


天月はそんなルシュフに背を向けると部屋から出るために歩き出す。


「ちょっと待って!化物が住む古城ってそんなこと言ったんですか?」


そんな天月を呼び止めようと悠希は声をあげる。


「そうだよ。この世界の住人はここのことをそう呼ぶ」


悠希の言葉に反応するように立ち止まった天月は悠希へと目を向ける。


「そんな…月華ちゃんと空くん、リースさんたちは化物なんかじゃないのに…」


悠希は天月の返事を聞いて悲しそうに俯いてしまう。


「……勘違いしているようだからいうけど月華たちのことを言っているんじゃないよ。化物は正真正銘、本物の化物のことを指しているんだ」


天月はそんな悠希のことをじっと見つめる。


「え…本物の化物…?」


天月の返事を聞いて悠希は大きく目を見開き、顔をあげる。


「…君とゆっくり話をしている暇はない。ことは一刻を争うから」


天月はそれだけいうと前を向いて部屋から出ようと歩き出した。


「あ、ちょっと待ってて。天月」


ルシュフは部屋から出ていく天月に声をかける。


「ねぇ…園長って君の師匠か何か?」


その後ルシュフは悠希へと目を向けて問いかける。

「え、あ…はい。園長は俺の師であり、勝ちたい…越えたい相手です」


部屋から出ていく天月を呆然と見ていた悠希はルシュフに声をかけられたことで我に返り、ルシュフへと目を向けて答える。


「そう…答えてくれてありがとう。また相手してね」


ルシュフはにっこりと微笑んでそう言うと天月のあとを追って部屋から出ていった。


「……どうしました?」


部屋の外に出た瞬間、立ち止まって自分の手を見つめるルシュフ。ルシュフのことをちゃんと待っていた天月はそんなルシュフに気がついて首を傾げる。


「…いや」


ルシュフの手は微かに震えていてその震えを抑え込もうとルシュフは力強く手を握って拳を作り、手を下ろしながら首を横に振った。


「ねぇ、天月。あの若者のことを聞いてもいいかい?」


そしてそのすぐ後にルシュフは天月へと目を向け、問いかける。


「……悠希のこと?」


天月はルシュフのことを見つめ、首を傾げる。


「うん。知っている範囲でいいから」


ルシュフは大きく頷いてからにっこりと微笑む。


「……他種族を見たことないのに差別意識がなくて面倒見がいい。そしてあの扉を開いた」


天月は悠希が最上階にある部屋の中へと入ってきたときのことを思い出し、ムッとする。


「え、あの扉開いたの?ってことは確定じゃないか」


ルシュフは天月の言葉に驚き、大きく目を見開く。


「……だろうね。まぁ今回の件が片付いて落ち着いたら話すよ」


天月はそれだけいうと自室に向かうために歩き出し、そんな天月のあとを追うようにルシュフも歩き出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る