妖怪仙人の腹のうち

青王我

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 『私』は、とある理由により干支にまつわる仙人の管理を業務にする、ごく普通の人間だ。

 神術やら仙術やらを操る彼らのこと、管理しようと思って管理できるものでもない。とはいえ、どういうわけか人間の姿をして生活しているのだから、人間的な問題やら悩みやらが発生する。そういうのを見つけて、必要であれば解決策を提示するのだ。


 とはいえ逐一まとわりついて問い質すというわけにもいかない。彼らだって自分の都合があるからだ。そんなわけだから、私はコミュニケーションの一環として酒場へ繰り出すのだ。


「そこでヘッドバットをだな」

「お前のはヘルメットバットだろうよ」


 そんなわけで私はいま、未の仙人に肩を組まれながら、ちびちびとビールをすすっている。

 未の彼は農家をやっているのもあって、細めではあるものの引き締まった筋肉をまとっている。やや長めの腕や脚から分かるように、身長も見上げるほど高い。


「最近は農業機械が良いから、昔ほど農筋じゃなくていいのは助かるね」


 などと控えめなことを言っているが、それでも私の肩にかかった腕から力付くで逃れるのはたぶん無理だろう。腕相撲――これは未の彼から時々挑まれる――でも勝てた試しがない。

 しかし、私の肩にかかった彼の腕は、逃さないつもりというよりは、気のいい仲間にするような親愛が感じ取れた。


 私がこの店に来る前は、反対側に座っている男の方へ腕が延びていた。鶏ささみの酢味噌和えをつまみながら、ぐいっとビールをあおる彼は、要するに卯の仙人だった。


「お前の畑に泥棒が来たらどうするよ」

「うちには泥棒なんて来たこと無いさ」

「だから来た時のことをだな……」


 大将に追加の料理を頼みながら、未の彼に問う卯の男だったが、途中で大仰に気付いた仕草をした。そして神妙な面持ちで疑問を口にする。


「いや待て、お前それまでに来た泥棒、どこへやった?」

「ふふ、鋭いね」


 未の男はニヤリと口角を上げる。そしてそれをみた卯の男もニヤリと笑みを浮かべた。私はそんな彼らのことをハラハラしながら見守ることしか出来ない。よく見ると大将もチラチラとこちらの方を伺っている。

 やがて未の男は私の顔を見て、パッと破顔する。


「いやあ、うちに来た人にはたっぷり働いてもらって、たっぷりお土産持って帰ってもらってるからさあ、うちには泥棒はいないんだよね」

「ああ、結果的に泥棒じゃないとかそういう」


 やれやれそういうことかと納得した一同はまた、盃を傾けだす。私も心底安心して、だいぶ残っていたビールを飲み干す。


「はいこれ、棒々鶏」


 大将もまた普段の柔らかい笑顔を取り戻し、店はいつもの雰囲気を取り戻した。


「だって泥棒から肉骨粉作るの面倒くさいしさ」

「「「はっ?」」」

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