この変態、規格外につき。

@perari

第1話

もし――

もしお前が、犬猿の仲のライバルが“あんなこと”をしている場面に、たまたまトイレで鉢合わせたら、どうする?

俺だったら、速攻で個室のドアを蹴り開けて、

「見たぞおおお!」

って高らかに笑ってやる。

そして両手を腰に当て、勝ち誇ったように言い放つんだ。

これこそ、ライバルにとどめを刺す絶好のチャンス――!

……のはずだった。

でも現実は、全然そんなカッコいいもんじゃない。

今、俺は確かにトイレにいる。

だが、問題は――

坂本瑞生が使っていたのは、よりにもよって、俺の服だったんだ!!

坂本は仰向けに俺のベッドに寝転がっていた。上半身はバスケのユニフォーム姿で、邪魔だったのか、裾をめくって口でくわえている。

背中には俺の枕と布団。額から垂れたバスケ後の汗が、ユニフォームにポタポタ落ちていた。

俺はトイレのドアの隙間にしゃがみ込んだまま、完全に固まってた。

1時間前、腹痛で冷や汗かきながら授業を抜け出し、寮に戻ってトイレに駆け込んだばかりだった。ようやく落ち着いたところで、外から物音がして——。

立ち上がる足もガクガクで、ドアを少しだけ開けて覗くと、坂本がバスケボールを抱えたまま俺のベッドの真ん中に立って、あたりをキョロキョロ見回していた。

あいつ、一見クール系で無口だけど、190cm超えの長身、引き締まった腹筋、アスリート並みの体つき……芸術学部どころか体育学部でもトップレベルのルックスだ。

思わず声をかけようとした瞬間、坂本は俺のベッドに身をかがめて、何かを探し始めた。

は?なに勝手に俺のベッド漁ってんだよ、こいつ絶対俺に何か仕掛けるつもりだな。

内心でニヤッと笑い、俺はトイレのドアの陰からスマホを取り出した。現行犯逮捕してやる、坂本の変態行為をこの目で、そしてこのカメラで暴いてやる!

撮影モードを起動すると、坂本は布団をめくり、シーツの下に手を突っ込んでゴソゴソ。次に枕をどかすと——

出てきたのは、俺が今夜使おうと思って洗っておいた下着だった。

え……え?こいつ、なにして……っ。

そして坂本は、そいつを手に取って、上下左右からじっくり眺めて——

最後には、くんくん……と、まさかのニオイチェック⁉

思考停止。完全に脳がバグった。

こ、こんなヤツだったのか坂本……!外見だけは真面目そうに見せかけて、中身は超ド変態だったなんて……っ!

彼の手は大きくて、指には長年バスケをやってできた薄いマメ、そして関節部分がほんのりピンク色。

そういえば、前に俺こう言ったな。「男のくせにピンク色とか、女子かよ」って。

……いま、その“女子かよ”なヤツが、俺のベッドで、顔を赤らめながら息を荒げて、汗で光る腹筋を見せてて——

その下が……ッ!

ムリムリムリムリ!!そんなサイズ、絶対人間じゃない!!

俺はもう、呼吸すら忘れてた。ドアの向こうからのぞいている体勢のまま、足の感覚もなくなってきている。スマホは手に持ったまま微動だにできない。

坂本は昔から背が高かったけど、大学に入ってからは完全に「上から目線」の高さになった。

あいつは運動バカ、俺は美大生。

あの腹筋と俺のぽよ腹を比べて、深いため息をひとつ。

……勝てるわけない。

そして、30分以上が経った。

坂本はようやくフィニッシュしたようで、胸だけが上下してる以外は完全停止。いわゆる「賢者モード」ってやつだ。

俺もようやく足を少しだけ緩めて、小声で「しんど……」とつぶやいた。

けど、気を抜いたのも束の間——

坂本が起き上がり、ユニフォームを脱ぎ、微笑んだ。そして……まっすぐトイレに向かって歩いてきた。

は???

俺は慌ててトイレの奥に移動、身を縮めて物陰に隠れる。

バレたら死ぬ、いや、命は助かっても“局部崩壊”の可能性すらある。

足音がどんどん近づいてくる。

心臓がバクバク跳ねて、ケツの穴もキュッと引き締まる。

「……神様、仏様、イエス様、ゼウス様、アマテラス様、観音様、誰でもいい、今だけ助けて……!一生菜食主義になるから……一週間だけでも許して……」

そんな祈りも虚しく、トイレの前で足音が止まる。

ギィ……。古びたドアノブに手がかかり、ゆっくりと回された。


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