ささやかな食卓 〜ミモザを添えて〜

編弥花/ayaha

君が添えるまで

 毎日一緒に当たり前のようにご飯を食べて、寝て。


 そんな日々が続くと思いきや大間違い。

 どうせまた、喧嘩するんだ。


 もうしないって?


 誓っても、仲直りしても、結局どうなるのかはその時次第。

 何も変わらない。

 変わってくれない。


 お前は本当に学習しない。おまけに無愛想で自己中だ。

 こっちはこっちで、確かに色々命令してしまっている。

 いけないことだって分かってる。

 分かってるけど。

 でもだからって…そんな無愛想にすんなよ。

 相手の気持ちくらい考えろや。

 こっち来んなよ。

 近寄るな。

 触れるな、話しかけるな。 


 でもそうじゃないんだよ、分かってくれよ。


 …喧嘩になるとそういう言葉しか出てこなくて、心中で人をけなしながら泣くことしかできない。


 折角気晴らししていたのに、お前がその話をしてくるからいけないんだ。


 だからだよ。

 こっちは我慢してたのに…。そっちも我慢しろや。


 今は、ただただ孤独だ。

 過ぎ去って行く尊い時間が勿体ないことだって分かってる。

 だけど体が言うことを聞かない。


 悲しい。


 寂しい。


 約束したのに。


 楽しみなことだってあった。


 全部…。

 全部全部お前のせいでぶち壊しだ。


 …こんな時に限って、友達からL〇NEの連絡通知が来るなんて。

 今は友達からちょっとした連絡がくるだけで、何故か涙が溢れる。

 特別なことを言われたとか、本当にそういう訳じゃない。顔を合わせたら挨拶を交わすような、本当に大したことのない内容。


 違う、逆だよ。


 落ち込んでるのに、そんないつも通りに話しかけられると困るんだよ。

 そんなん…泣いててもいつも通りのテンションで返信するしかないだろうが。


 ……嬉しいけどね。


 暗闇の中で泣きながら、あたかも何もなかったかのように返信を済ませる。


 ずっと泣いてて、ストレスが溜まって、喉が痛くなって、それでも泣いて…。

 沢山の涙を拭って、少し落ち着いたら物凄く寒く感じた。気がつかなかっただけかもしれない。


 孤独で、寂しくて。

 どこか切ない…。


 この文章送ってやりたいよ、?

 でもムカついてお前をL〇NEの友達から消しちゃったし、今更繋ぎたくなんかない…。


 俺はお前のことをそれだけ嫌っている。


 それなのに。


 いつも俺がお前に対して「どうせ嫌いなんだろ」とか言っても、「好き」だと言う。


 「嘘つくなよ」


 「嘘ついてない」


 その言い合いが続くだけ。


 いつまでも泣きじゃくりながら、頭ん中のごちゃごちゃした言葉全部を文字に起こしていたら、もう夜ご飯の時間になっていたみたい。



 足音が近づく。


 頭の上で物音を立てた後、足音が遠ざかる。



 喧嘩した相手なのに、わざわざ料理をこっちまで運んでくるのはどうして…?


 そんなんされたら…余計に……余計に涙が出るだけだろうが…。



 …これまで俺は、どのくらいの時間泣いていたんだろうか。


 スマホの液晶画面に表示された時計を確認する。


 画面がぼやけて上手く見えなかった。


 瞬きし、改めて確認する。

 どうやら4、5時間くらいこたつの中に籠もっていた。


 亀が甲羅から顔を出すように炬燵こたつから出ると、机の上に料理が置かれているのが見えた。

 それを見た瞬間、また涙が溢れてきた。


 「あぁ、なんで…。」


 だって…机の上に置かれた料理。


 …それは、大好物のハンバーグだったのだから。

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