露草の花の刃紋がある打刀と脇差

藤泉都理

露草の花の刃紋がある打刀と脇差




 憧れの古民家喫茶店を開こうと無料同然で買い取った古民家を自力で改修している最中の出来事だった。青年のひろしは床下から見つけた二振りの刀に顔を蒼褪めさせた。打刀と脇差。露草の花の刃文がある二振りの本物の刀には見覚えがあった。当然である。陰陽師である友の椿つばきがその命を賭して、悪逆非道を繰り返す双子の大天狗を封印した刀だったのだから。椿の血縁の陰陽師の元へ早く持って行き厳重に封印してもらわなければ。博はすんなり抜けた鞘を戻し、かつての輝きを失っていない二振りの打刀と脇差を抱きしめたのち。地面に縫い留められていた足を無理矢理動かしては駆け出したその瞬間、懐かしい友の声が聞こえたかと思えば。


 は。

 久方ぶりだな、博。

 茫然とする博の瞳には、最期の時よりも多く年を取った友と、最期の時よりも多く年を棄てた双子の大天狗が映っていたのである。






「っ………」

「そんなに感激してくれるのか、我が友よ」

「っ………」

「安心せよ。もう幾年月も鍛え抜かれた打刀と脇差の中で過ごす中で邪気を抜き取られ、双子の大天狗は浄められた。もう悪逆非道を繰り返す事はない」

「っ………」

「うむ。流石は我が友。浄められた土地で商いを催すつもりなのだな。丁度よい。浄められたとは言っても、かつてのように邪気に侵された土地に身を置けばまた心身共に穢れ、悪逆非道を繰り返すは必須。それを防ぐ為には双子の大天狗を浄められた土地に身を置く必要がある。この土地。いや。おまえの傍ならばきっと、双子の大天狗は清き存在で居られる。俺は信じている」

「っ………」

「無論、おまえだけに任せるつもりは毛頭ない。年を取ったとはいえ、俺もかつて名を馳せた陰陽師だ。清らかさには自信がある。共に、大天狗を浄め続けながら、商いを成功させよう」

「………っば………」


 勝手な事ばっか言いやがって。

 誰が付き合うものか。

 もう知るかおまえの事なんか忘れて心機一転、古民家喫茶店を始めようと思っていたのに。

 その意志を挫きやがって。

 何年、何十年、何百年、おまえを罵倒し続けるだけの生を過ごして来たと思っているんだ。


「悪かった。勝手に決めて、勝手に行動した。勝手に命を棄てた。あらゆる言葉を受け止める。どうか、今ひとたび、受け入れてくれ」

「っ………だれ、が、」


 受け入れるかってんだ。

 振り絞った声音でそう突き放すはずだった博の身体は、何故か、椿の身体を強く抱きしめていたのであった。


(っくそっ! くそっ! 俺の、)











「わしら、蚊帳の外だのう」

「うむ、今は空気を読んでおとなしくしておこう」

「むう。わしも早く二人と戯れたい!」

「これ。我慢せぬか!」

「邪魔をするな!」

「おぬしこそ二人の邪魔をするな!」











(2025.5.16)



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露草の花の刃紋がある打刀と脇差 藤泉都理 @fujitori

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