第4話 事故物件①

 私達がどうやって暮らしているか、疑問に思う方もいるかもしれません。

 私達は仕事をしていません。

 身分証は持っています。徳井シゲトシ七十二歳と言うのが、私の偽りの身分です。

 本当は千五百歳ですが、まぁ、それはいいでしょう。


 ではどうやってお金を工面しているのかと言えば、私達は動物と言葉を交わす能力があるので、馬と会話して、どの馬が一番早く走れるかを知る事が出来ます。

 また、透明化の魔法が使えるので、何かとチャンスが訪れます。


 とまぁ、詳細を書き記す事が出来ない様な手段で、お金を稼いでいる訳です。

 

 そんな私達は埼玉県草加市にある三階建てのアパートで暮らし始めました。

 

 サタン様の弟であるジタン様が、人間界に隠したという、物見の水晶球を探してこの地に来ました。

 ジタン様の残留魔力は、この地まで続いていて、草加に隠されているのは間違い無さそうなのですが、このアパート付近で思念が消えています。


 私達の住む部屋は、駅から徒歩十五分。築二十年のアパートで、間取りは1Kです。

 二人で六畳の部屋で過ごしていますが、人間が使う日用品は、私達魔族には必要ないので、六畳と言えども、広く感じるのでした。

 ただ一つ、前の住人が置いていったパソコンがあります。

 今時の薄型のモニターではなく、初代アイマックの様に丸みを帯びたボディをしていました。

 明らかに年数を重ねた古い型のパソコンでしたが、電源を点けるとちゃんと起動します。

 まぁ、スマホがあるので使う事はほぼ無いのですが。


 私達の月の出費はスマホ代一万円と、食費一万円、それと家賃のみなのですが、この部屋の家賃はなんと破格の月二万円です。


 そうです。つまり事故物件なのです。

 前の住人は四十代の女性で、生活を苦にして自殺したとのこと。

 以来、この部屋では霊が出るとか、ラップ音がするとか、いわくがある様なのです。

 今日も、午前二時、丑三つ時になるとラップ音が……

 おや、パソコンの電源が勝手に点きました。

 少し待つと、生成AIのツールが起動します。

 これが、幽霊の正体なのでしょうか?

 

 私は折角なので、物見の水晶球が何処にあるかを聞いてみることにしました。

『この世のあらゆる事象を見通せ、正解を導き出せる道具があるとしたら、何処に隠す?』

 

 AIの答えは、『その物体の場所が何処にあるかをお教えする事は出来ませんが、それってまるで私みたいですね』でした。 

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