第53話 ミズホとフライヤの進むべき道
「別にいいんじゃないッスか? 隊長の思うままで」
意外なところから反応があった。言ったのはフライヤの部下で、副隊長のレオン。言い方のゆるさといい、マイペースってこういう人のことを言うんだろうな、って印象。
「え? でも……いいの?」
「そもそも、オレだってリーファ大尉のやり方は嫌いッスよ。今のホーリーライトに“正義”があるかって言われたら、微妙ッスからね」
やっぱり現場の不満は溜まってるんだ。
「自分も、レオンと同じ意見です」
もう一人はレオンとは対照的にキッチリした騎士で、名前はカイン。声に迷いがない。
「しかし、ホーリーライトを裏切るかもしれないんだぞ? 私の一存でお前たちを巻き込むのは……」
フライヤはまだ躊躇している。部下が背中を押しても、彼女自身の中で答えが出ていないのが分かる。
そこで私は、ふっと思い出した。
「あ、そうだ! これでどう?」
鞄から取り出したのは、ルーサー騎士団長の推薦状。
「え? それって?」
「これ、騎士団長からギルド宛ての推薦状ッスね……。アンタら、団長の知り合いなのか」レオンが目を丸くする。
「うん。いろいろあって、お世話になった。この異界のホーリーライトのやり方は、ルーサーさんの方針に反してるみたいだけど、私たちの味方になってくれれば“騎士団長側の人”ってことになる。なら、ホーリーライトを“裏切る”って話とは違うはずでしょ?」
「そ、そういうものかしら……?」フライヤの眉が揺れる。
そこでエリーが静かに言葉を継いだ。
「それは確かに断言はできないわ。でも――少なくとも、あなたの幼馴染のルアナは“自分の信じる道”を選んでる。あなたは、どうしたいの?」
フライヤは一瞬、唇を結び、そしてまっすぐ私を見る。
「アタシは……アタシだって、自分の信じる道を行きたい。分かった。あなた達を信じるわ。アタシ達フライヤ隊は、騎士団長側につく」
「フライヤさん!」
「フライヤでいいわよ。アタシのことはフライヤって呼んで。よろしく、ミズホ、エリン」
やった! これでルアナ救出に一歩前進!
「で、フライヤ。さっそくなんだけど、ルアナが囚われてそうなのってどこ?」
「囚人用の牢屋がある区画ね。アタシについてきて」
私たちはフライヤの先導で、駐屯地の奥――石造りの階段を下り、地下へ。ランタンの明かりが壁に揺れて、冷たい空気が肌を刺す。鼻に少し鉄っぽい匂い。足音がやけに響いて、心臓の鼓動まで数えられそう。
「おそらく、人を捕らえて閉じ込めるならここだと思うんだけど……」
分厚い鉄格子の並ぶ通路に出た瞬間、私は息を呑んだ。
「なんか、牢屋の数、多くない? そんなもん?」
ミドリーノシティの規模から考えても、住人が全員入れそうな勢いの数。何これ、笑えない。
「……確かに広いわね。あまり考えたことなかったけど」フライヤが顔をしかめる。
「レオン、カイン。何か分かる?」
「隊長が分からんかったら、オレに分かるわけないッスよ?」
「いえ、自分も……」
「そっか……」
気にしても仕方ない。今はルアナを――。
「ここは私に任せて」
エリーが一歩前に出て、両手を胸の前で組む。瞳に薄い光が灯って、柔らかな詠唱が落ちる。
「会った人を探す光の補助魔法よ。近くにいるなら反応が出る。――……来たわ。ルアナの反応、こっち」
エリーが指差す通路へ、私たちは足を速める。
石床に靴音が連なる。鉄の匂いが濃くなる。胸の鼓動が、速い。
角を曲がった、その時――
「お、お前ら……」
低く掠れた声。聞き慣れた響き。
鉄格子の向こう、目を細めてこちらを見つめる影。
いた。
「ルアナ――!」
喉まで出かかった言葉を、私は両手で押さえ込んだ。叫んだら終わりだ。ここはまだ敵地のど真ん中。
でも、目は笑ってしまう。だって、本当に――
居た! ルアナを発見!
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