第36話 ミズホとクロとエリーと

「まずは、シキさんからの手紙よ」

エリーが差し出してきた封筒を開けると、そこには整った字で私宛のメッセージが綴られていた。


『ミズホへ。あまり手助けにならなくてごめんなさい。けど、あなたの進む道を応援してる。いつか戻ってくることも信じて待ってる。あまり、エリン様に迷惑かけないようにね! シキ』


……シキ。

手紙を読み終えると同時に胸がいっぱいになって、思わずぎゅっと手紙を握りしめた。

ああ、やっぱりシキはいつものシキだ。戦った時は本気で怖かったのに、結局こうやって心配してくれてる。変わらないんだなぁ。幼馴染って、こういうものなのかもしれない。


「アマンダ先生から、私たちにって色々くれたわ」

エリーが次に差し出してきた袋。その中からは見慣れない小物や封筒がいくつも出てきた。


「手紙が入ってる」

私は震える指で便箋を開く。そこには、先生らしい、優しくも凛とした言葉が並んでいた。


『ミズホさん。ドタバタでお別れになりましたが、ごめんなさい。あなたがどのような道に進もうと、私は先生として最後まであなたを信じるわ。頑張ってください。

追伸 エリンさんに持たせた物は私からです。これからに役立ててください。 アマンダ』


読んだ瞬間、涙があふれそうになった。

……信じてくれる。先生は最後まで、私を「生徒」として見てくれてる。退学を告げられた時、私は一人ぼっちになった気がして心細かった。でも違ったんだ。こうして支えてくれる人がいる。そう思っただけで、胸の奥が少し温かくなる。


「なんか、色々あるわね」

涙を拭いながら、袋の中身を一つずつ取り出していく。


タブレット端末には、びっしりと地図アプリがインストールされていた。

「……すごい。どの異界にいるかまで分かるなんて」

画面を見ながら、自然と感嘆の声が漏れる。

これを見ると、私たちが住んでいた世界は本当に狭かったんだなって思う。外には、無数の異界が広がっていて、それぞれの世界で人が生きてる……。頭の中に一気に想像が膨らんで、心臓がドキドキした。


さらに、アプリの一覧には「冒険者ギルド」と書かれたアイコンがあった。

「ん?これ何だろ……?」

首を傾げると、エリーがアマンダ先生の手紙を見ながら答えてくれた。

「これ、他の異界に行った時に使えるアプリみたい。各異界には冒険者ギルドがあって、そこで身分を登録できるらしいの。その時に、この紹介状を見せれば色々取り計らってくれるって」


……なるほど。つまり、私たちはこれから異界に飛んで、冒険者として新しい生活を始めろってこと?

ちょっと待って、それってつまり──。


「まずは、今いる世界から別の異界に渡れってこと? どうやって?」

思わず声が裏返った。


「ミズホ、以前、理事長から“鍵”を渡されたでしょ?」

「ああ、あれね。指定した場所に飛ぶっていう便利アイテム」

「そう。それ、実は異界そのものを座標にして移動できるんだって」


「…………」

……いやいや、サラッとやばいこと言ったよね!?

ちょっと待ってよ理事長!? あんな危険物、最初から持たせないでよ!? 図書館から出るためだけに使ってたら、どこに飛ばされてたのよ私!?


肩の上でクロが「ニャッ」と笑った。

「ミズホらしいニャ。知らないで使ってたら、確かに大惨事だったニャ」

うぅ、全然笑えない……。


他にも袋の中からは、回復アイテムや異界通貨らしきものまで出てきた。

「これなら、しばらくは食いつなげそうね」

少し安心しながら呟く。うん、まずは生活の基盤を整えることからだ。


「とりあえず、冒険者ギルドに登録するのが最初の目標ね」

自然と声に力がこもる。今まで見えなかった未来が、少しずつ形になってきた気がする。


私は大きく息を吸い込んで、二人を見た。

「この鍵を使うよ。エリー、クロ、準備はいい?」

「ええ、大丈夫よ」

「我もいつでも行けるニャ」


二人の返事を聞いて、胸が熱くなる。私は一人じゃない。隣にいてくれる仲間がいる。


──なら、迷う理由なんてない。


「よし……行こう!」

私は鍵を高く掲げた。


光が広がり、空間が揺らぎ始める。胸の鼓動が高鳴る。

これは、私たちの新しい旅の幕開け。

闇を背負ってでも、私は進む。だって、そう決めたんだから!


「さあ、私たちの冒険へ!」

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