第35話 ミズホと突然の退学

私は、学園の門に立っていた。

あまりにも急すぎる展開で、頭が追いつかない。


――退学。


理事長にそう告げられてからの流れは驚くほど早かった。

行動は早い方がいいと告げられ、私は寮に戻り、慌ただしく荷物をリュックに詰め込んだ。

服や本、魔法の道具、思い出の小物。入れれば入れるほど、「ここでもう暮らせない」という現実がじわじわと胸に押し寄せてくる。


「……本当に、私……学園を出ちゃうんだ」


慣れ親しんだ部屋を最後に振り返ったとき、涙が出るかと思った。けれど不思議と出なかった。きっと、実感がまだ湧いていないんだ。

ただ、リュックの重みだけが妙にリアルで、背中にずっしりとのしかかってくる。


クロは、私の肩の上で小さくため息をついた。

その横顔がどこか気まずそうで、私は胸がちくりと痛んだ。


「クロのせいじゃないよ」

思わず、そう声をかけていた。


「……でもニャ、やっぱり我が契約なんて持ちかけなければ、ミズホは今も学園で……」


「それはなし。私はね、クロ。自分で決めたの。あの時、この道を選ぶって」

強がりじゃない。これは本心だ。

闇を選んだのは私自身。クロに押し付けられたわけじゃない。


「だから……一緒に探そうよ。これからどうするか」


そう口にしてみたものの、本当は不安でいっぱいだった。

進むべき道なんて見えない。

頼れる場所もない。

“お尋ね者”として追われる可能性まである。

心のどこかで「どこへ行けばいいんだろう」と繰り返し問い続けていた。


「……まあ、目的探しから始めるしかないか」

わざと明るく言ってみた。クロが余計に気を負わないように。


二人で歩き出そうとした、その時だった。


「おーい! ミズホーー!」


聞き慣れた声が響く。

振り返ると、息を切らせて駆けてくる親友の姿が見えた。


「エリー!?」


「はぁ……はぁ……待って……私も一緒に行くわよ」


「えっ!? で、でも……エリーは私と違って、立場があるじゃない」


驚きで言葉がつっかえる。けれど、エリーは迷いなく、まっすぐに言った。


「ミズホ、私のこと知ってるでしょ? 私は“すべての属性に意味がある”って信じてる。もし学園に残ったとしても……いつか私も異端として排除される。そんな未来、分かってるの」


その瞳は揺らがなかった。

エリーの信念が、ひしひしと伝わってくる。


私は言葉を失った。胸の奥が熱くなって、苦しいくらいだ。

この世界でたった一人でも、私を理解してくれる人がいる。それがどれだけ心強いか。


「だから、行きましょう。私たちの旅へ」


エリーはすっと、手を差し伸べてきた。

その仕草が眩しすぎて、堪えきれなくなった。


「……エリー……うわぁぁん! すごく嬉しいよぉ!」


気づけば、子供みたいに泣きじゃくっていた。

涙が止まらない。頬を伝う雫が、これまでの不安や孤独を洗い流してくれるようだった。


「やれやれ、泣き虫だニャ……」

クロの小さなつぶやきが聞こえたけど、今は構ってられない。


私の隣には、いつだって笑い合える親友がいる。

この絆がある限り、どんな道だって進める。


そう思えた瞬間、学園を出る恐怖が少しだけ消えていた

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