第23話 エリーとトラブルメーカーなあの子

ミズホと出会って以来、私は少しずつ変わってきた気がする。


それまでの私は、“エリン王女”として、完璧であることを求められていた。優秀で、礼儀正しくて、誰にも隙を見せない――そういう自分を、どこか演じていたような気がする。でも今は違う。

“ただのエリン”として、自然に笑ったり、ふざけたり、時には本音を言えたりする。そんな日常が、なんだかとても愛おしい。


そのせいか、周りの子たちも、前よりずっとフランクに話しかけてくれるようになった。

……いや、私が変わったから、世界も変わったのかもしれないわね。


さて、今日は――待ちに待ったテストの成績発表の日。


うぅ……。今回は範囲も広くて、ギリギリまで勉強してたし、あまり自信ないのよね……。


と、不安に思いつつ掲示板に目をやると。


「……あら、思ったより高得点?」


全体でも上位に食い込んでる。ほっ……よかった。努力はちゃんと報われたみたい。


「やっぱりエリンってすごいなぁ。今度、勉強のコツとか教えてよ~」


「ふふっ、私でよければ喜んで」


と、和やかムードの中、ふと目線を上にずらすと――


「……ん? ちょっと待って……え?」


「主席:篠崎ミズホ」


……目を疑った。いや、本気で三度見した。


「ま、まさかのミズホ……!? 満点!? 全教科!?!?」


嘘でしょう!? 全教科満点って、どういうこと!?

あの子、授業中にお菓子食べてなかった!? 寝てなかった!? 時々爆発起こしてなかった!??


「……あーやっぱりミズホがトップかぁ。あの子、先生泣かせの常連だし」


「え、どういう意味で……?」


「魔法薬の試験なんて、あの子のせいで難易度爆上がりしたのよ。前回、試験開始5分で寝て、しかも満点取ったから、先生がムキになっちゃってさぁ」


……あの難解すぎる設問の数々、そういう理由だったのね……。


しかも今回の魔法薬の平均点、まさかの20点って。


そんな中、満点取るミズホ……ある意味で、もう別次元。


その本人はというと、例の先生とバチバチ(?)やり合っていた。


「ふふふ、今回もミズホちゃんの勝ちのようですね、先生♪」


「きーっ! この爆発の申し子ぉぉぉ!なんであれが解けるのよ!」


「先生の講義が素晴らしいからですよ?(にっこり)」


「だったら、爆発の頻度を減らしてーーー!!」


「それとこれとは別です♡」


……なんというか、先生が一番の被害者に見えてきたわ。


――そういえば、先生たちの間ではミズホの評価、ちょっと特殊なのよね。


“勉学・実技:主席級”

“生活態度:問答無用で問題児”


という、まさにハイスペックトラブルメーカー。


「おー、エリー発見~」


最近では、彼女から“エリー”なんてあだ名で呼ばれてる。最初は少し戸惑ったけど、今ではそれも、なんだか心地いい。


「ミズホ……先生を困らせるのも、ほどほどにしないと」


と、注意しようとした矢先――


「こらーーっ!!また先生に迷惑かけて!」


ああ、やっぱり来た。鬼教官・九段シキ、登場。


「やばっ!捕まる前に逃げるわっ!じゃあね、エリー!また後で~!」


そう叫ぶや否や、ミズホは風のようにシキの追跡を振り切り、去っていった。


――ああ、やっぱり面白い子だわ、この子。


破天荒で、奔放で、自由そのものなのに、

ちゃんと芯があって、強くて、優しい。


彼女と出会って、私の毎日は、少しだけカラフルになった気がする。

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