第4話 ミズホと謎の声

本の整理を始めて、もう2~3時間は経った気がする。

ふと窓の外を見ると、すっかり夕方。

それにしても……全然減ってる気がしない。

あの本の山、ちょっとずつ片付けてるはずなのに、むしろ増えてない?

うん、これはもう今日中に終わらせるのは無理ね。


「驚いたわね。真面目にやってるなんて」


振り返ると、ジュース片手にシキが立っていた。

ナイスタイミング。喉が渇いてたところだよ、ありがとう!


「ジュースありがと。私だって、やる時はやるんだから」


ああ~、この甘さが体に染みる~。疲れた身体がようやく息を吹き返した気がする。

シキは私の隣に腰を下ろして、私の手元の本をちらっと見た。


「そうね。あなたは本当に、やる時はちゃんとやる子だもんね」


「やだ、何その突然の高評価。ついに私の偉大さに気づいちゃった?」


「お調子者じゃなければね。本当、なんで私、あなたみたいな幼馴染と縁があるのかしら……」


「知らないの?私たちって対極同士で引き合う運命なのよ。陰と陽、静と動ってやつ」


「名言っぽく言わないで」


ため息まじりに、シキはジュースの缶を握りしめた。

やれやれ、って顔。うん、慣れてる。

でもまあ、シキがここまで付き合ってくれてるのはありがたい。なんだかんだで優しい子だからね。


「私はそろそろ帰るけど……あなたは切り上げないの?」

「いいよ。どうせここでテスト勉強するつもりだったし。もうちょい片付けてからやるわ」

「……本当に、あなたって努力してるところを人に見せるの嫌いよね」

「だって恥ずかしいし。努力キャラって、私のイメージじゃないでしょ?」

「そういうところ、変なとこだけ頑固よね。……じゃあ、お先に」

「はいはい、またね〜」


さて、と。

やっと一人きりの時間だ。

……さっきの天文学の本、気になってたのよね。ちょっとだけ、読むくらいなら……いいよね?

ちゃんと勉強もするからね?本当に!


気づけば深夜になっていた。

やば、完全に時間を忘れてた。さすがに寮に戻らないと。


立ち上がった、その時だった。


(グルルルル……)


……え? 何か今、聞こえた?


「……誰か、いるの?」


辺りを見回すけど、誰もいない。

図書館には私しかいない。物音一つもしない。……気のせい?


(お、お前……我の声が聴こえるのか!?)


はい、残念。気のせいじゃなかったみたい。

うん、はっきり聞こえた。何この展開。


「えっ、これ……いわゆる私にしか聞こえない系の声ってやつ?」

(どうやらそのようだ。我の声は、お前にしか届いていないらしい)

「詐欺とかじゃないよね? 急に声が聞こえるとか、怪しさ満点なんだけど」


(疑うのも無理はない。我も、いきなり声が通じる者が現れて戸惑っているのだ)


……なんか、冷静に会話できてる自分がちょっと怖い。

でも、声の感じからして嘘ついてる風でもないし……まあ、疑ってもキリがないか。


「で? 信じるとして……あなた、何者?」


(我は、闇の精霊と呼ばれる存在だ)


「や、闇の……精霊?」


うわあ。ヤバそうなワードきた。

“闇”ってだけでこの世界じゃ、忌み嫌われるのよね。


この世界における属性は5つ。火、水、雷、光、そして闇。

中でも闇は、宗教団体「ホーリーライト」が嫌悪してる対象。


“聖なる光”を崇めるこの教団は、世間の価値観にも強い影響を与えてる。

だから闇属性ってだけで、何かと偏見の対象になる。


……まあ、私はそういうの、信じてないけどね。

信仰って自分の中で完結するものでしょ?他人に押し付けるものじゃない。


でも、そんな“闇の精霊”が、私にしか声を聞かせないって。

私、一体どうなっちゃってるの?

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