第2話新しい日常
相変わらず、ここには慣れない。
少し気を抜けば、素が出てしまいそうだ。
「瞬〜!」
「ん?」
「この、パキッて割るアイスしかなかったけど、いい?」
「いいよ〜」
そういえば、昔よく食べてたな。パキッと割って半分こする、あの安いやつ。
……なんか、こんな景色のいい場所でアイス食べるとか、マジで“夏休み系の漫画”じゃん。
「瞬〜、私が大きい方〜」
「ずるいな〜」
そんなやりとりをしていると、玄関の方から声がした。
「陽葵〜、ただいま〜」
――陽葵。
そうか、彼女の名前は陽葵(ひまり)って言うんだな。
初めて聞いたはずなのに、なんだか懐かしい感じがする。
「おじいちゃん、おかえり〜!」
陽葵が手を振る。その隣で、ひとりの男性がこちらに目を向けた。
「瞬君、今日からよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
……たしか、向日葵農家を手伝う予定だった。
――いや、なんでそんなこと知ってるんだ?
記憶がないのに、この世界のことは少しだけ分かる。それが妙に怖い。
「瞬って東京に住んでるんでしょ?なんか教えてよ〜」
「ちょっと待って、スマホで調べて……あれ?」
ポケットを探る。でも、ない。
「スマホ……どこいった?」
「え? しゅまほ? なにそれ?」
――しまった。
「いや、なんでもないよ」
「もしかして……」
陽葵が小さくつぶやいたあと、首を振った。
「もしかしてって何?」
「ううん、やっぱなんでもない」
……この世界には、スマホなんて存在しないのか。
“スマホ”という単語を思い浮かべた瞬間、頭の奥がズキンと痛んだ。
陽葵はきょとんとしながらも、笑ってこう言った。
「ねえ、瞬。ホントになんでもないの?」
僕は笑ってごまかしたけれど――
この世界に、俺は“ちゃんと”溶け込めてるんだろうか?
万が一、俺が“瞬”じゃないって気づかれたら……どうなる?
……その日はずっと、蝉が鳴いていた。
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