夏と走馬灯

@steel-wool

第1話目覚めの丘

蝉の鳴き声が、鼓膜に響くようだった。

異様に暑い。まるで、太陽の中にいるみたいだ。


「う〜ん……」


ここは、どこだ。

全身が重い。

目を開けると、眩しさの中に大きな木の枝が揺れていた。


「なんでベンチの上で寝てんだ……?」


周りを見渡すと、ここは丘の上らしい。

眼下には、どこまでも続くひまわり畑。

遠くには、霞むように民家と川。

そして反対側――木の向こうには、海が光っていた。


夢でも、見てるみたいだ。


すると、背後から声がした。


「やっと起きた、瞬?」


振り返ると、白いワンピースを着た少女が立っていた。

肩までの髪が、風に揺れている。

その瞳は、どこか懐かしい色をしていた。


……瞬? 誰のことだ、それは。


「俺は……ぐっ」


頭にズキンとした痛み。

何も、思い出せない。


「大丈夫!?」


「あぁ、大丈夫だ。」


何となく言葉を返してしまう。

でも、仕方ない。このまま状況を聞いてみよう。


「ここ、何処だっけ?」


意を決して聞いてみる。


「瞬、本当に大丈夫?

小学校最後の夏休みだから、

おじいちゃんち、もう来れないかもしれないって――言ってたじゃん」


「そうだった、そうだった。ごめんごめん」


瞬って、小学生?

俺、そんなに若かったか?


いや、というか……若返ってる?

てか、これ……漫画でよく見る“転生”ってやつ?


それにしては、転生場所おかしくないか。

こういうの、もっと剣と魔法のファンタジー世界とか……

そういうのじゃないのか?


「瞬、どうしたの?そんな考え事して」


「いや、なんでもないよ。

なんか、それにしても暑いなって」


「まあね。うちのおじいちゃんち、向日葵農家だし。

あ、そういえば、おじいちゃんがアイス買ってくれてたから、食べようよ」


「うん」


少女が僕の手を引っ張って、ひまわり畑の奥の民家の方へと連れていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る