第2話 記憶を失った女性
髙橋先生は驚き、女性看護師はうるうると涙をうかばせていた。
見覚えもない場所、この建物から臭う不思議な匂い。私はここが嫌いだ。
ルカ 「誰……」
二人に気づいたルカは少し怯えた表情を見せ振り返り声をかけた。
見覚えのない人……。誰?
髙橋健一 「驚かせてすまない。私の名前は高橋健一だ」
健一は自分の首にぶら下げてる名前プレートを見せながら笑顔で自己紹介をする。ルカは健一のことを警戒しながらも質問をした。
ルカ 「ここは?」
髙橋健一 「ここは病院だよ、君は子供を守るために、トラックにぶつかったんだ。覚えてるかな?」
ルカ 「事故……」
子供を助けた?トラックにぶつかった?何それ?知らない。分からない。どうして?
ルカは必死に思い出そうとしているが、頭の中が真っ白で何もわからなかった。そんな様子を見ていた髙橋健一は優しくルカの方に手を置き笑う。
髙橋健一 「大丈夫だ、落ち着きなさい」
女性看護師 「ルカさんの様子がおかしいですよ」
女性看護師は高橋健一にボソッと呟くと高橋健一は真剣な表情で『わかってる』と言い、ルカに質問をする。
髙橋健一 「自分の名前わかるかな?」
ルカ 「名前?わからない」
名前が思い出せない。どうして……。
ルカは自分の名前がわからず戸惑ってしまう。ルカは突然頭痛がして頭を抑える。健一はルカの背中をさすりながら女性看護師に話しかける。
髙橋健一「君、保護者の方を呼んできて」
女性看護師 「はい」
女性看護師は少し焦った様に急いで病室を出て行く。
髙橋健一 「それじゃあ、どこに住んでたか自分の年齢わかる?誕生日はいつかな?」
ルカ 「住んでるところ……。年齢……わかんない……」
髙橋健一 「最後に目が覚める前のことに覚えてることは?」
ルカ 「何も……」
どうしても思い出そうとすると頭がズキズキする。
髙橋健一 「そうか……。教えてくれてありがとう。最後に7×4=の答えは答えられるかな?それと今から渡す漢字読めるかな?」
高橋健一は紙とペンを取り出し紙に文字を書き始めそれをルカに見せた。そこに書いてあったのは音色だった。
ルカ 「7×4=28で紙には音色って書いてあります」
高橋健一 「ありがとう。もう少ししたら君の保護者が来るから待ってなさい」
高橋健一は優しく笑いかけルカに話をかけた。
ルカ 「保護者?」
髙橋健一 「そうだよ」
ルカ 「……」
その後も髙橋先生と話し自分の名前を知ることができた。そしてしばらくすると女性看護師と共に文乃が入ってきた。文乃は病室に来るまでの間に走っていたのか呼吸が少し荒く汗を少し流していた。
文乃 「ルカ……」
文乃はルカの方を見て少し安心したような表情で名前を呼ぶ。
この人は誰?どうして私の名前を知ってるの?私の知り合い?
髙橋健一 「あなたは?」
文乃 「私は孤児院で働いてるものです」
髙橋健一 「そうでしたか。突然ですが、とても残念な話があります」
文乃 「残念な話?」
健一は部屋を移動しようと病室をでて別の部屋へ案内されると健一は真剣な表情をして丁寧に説明をした。
髙橋健一 「ルカさんは事故によって一時的記憶障害で全ての記憶を失ってるんです」
文乃 「それって……」
高橋先生は真剣な表情で答えると、文乃は顔を青ざめ言葉が詰まる。
髙橋健一 「記憶喪失です」
文乃 「そんな……。先生、ご冗談はよしてくださいよ」
文乃は困惑した状態で苦笑いをするが健一はうつむきながら首を横に動かす。
髙橋健一 「おそらく事故によって頭を強く打ち付けたことで起きたのだと思われますが他にも原因が……」
文乃 「原因ってなんですか?」
文乃が驚きながら聞いた。
髙橋健一 「先ほど調べてわかったのですがルカさんは以前からここの病院の精神科の方に通っていたんです」
文乃 「確かに、以前はルカを引き取ってくれた人がルカを虐待したことがわかり、改めて保護し精神科にも通わせてましたがそれはもう終わってるはずですよ?」
ルカが中学生の頃に『引き取りたい』と言う夫婦が、妻の方が亡くなってからは急に夫の性格が大きく変わりルカを虐待するようになったがルカは上手く退け孤児院に戻ることがてきたのだ。
髙橋健一 「確かに何年か前にも精神科に通ってるみたいですが、最近、精神科に来たみたいですね」
文乃 「え?」
高橋健一 「担当医の話によりますと学校でいじめを受けているらしく精神科は学校先生の紹介で来たらしんですよ」
文乃 「いじめ……。そんなはずはありません。だって、学校では友達も沢山いるって……」
髙橋健一 「いじめを受けてることは孤児院の方には言わないでほしいと口止めされてたみたいなんです。学校の担任も他の方も見て見ぬ振りならしく、その面でもかなりストレスになったでしょうね。強く頭を打った衝撃と今までのかなりのストレスで偶然にも記憶が失ってしまったということです」
文乃 「そんなことあるんですか?」
髙橋健一 「極めて少ないですがないとも言えませまん」
文乃は、辛い表情をしながら健一に質問した。
文乃 「先生なんとか記憶を取り戻すことが出来ないでしょうか?」
髙橋健一 「記憶を無理にでも戻そうとするとルカさん自体がますます心を閉ざしてしまう可能性も捨てきれません」
髙橋健一が深刻そうな顔で文乃に伝えると文乃は顔を青ざめた。
文乃 「そんな……」
文乃は辛いのか拳をギュッと握りしめ唇を噛みしめる。
文乃 「記憶はいつ頃戻るのでしょうか?」
高橋健一 「いつ戻るかは正直わからないです。人によって違いますので、それに、記憶が戻らない可能性だってあります」
文乃 「ルカは戻りますよね?」
高橋健一 「それは断言できません」
文乃 「そう……ですか……」
髙橋健一 「ですが、明日には退院しても問題ないですよ」
文乃 「わかりました……、ありがとうございます」
文乃が深々とお辞儀しながらお礼を言って部屋を出た後、再びルカのいる病室に戻り、ルカに自己紹介をした。
文乃 「はじめまして、私は文乃。よろしくね」
文乃はどこか少しやつれた顔をしながら笑顔で喋る。
ルカ 「はじめまして」
文乃の笑顔に対しルカはぎこちない表情を見せながら挨拶を返す。
文乃 「私とあなたは、双葉孤児院で暮らしてるの。覚えるかな?」
ルカ 「孤児院……」
身に覚えもない名前を出されてルカは軽く首を横に振る。
文乃 「そっか……」
ルカ 「……」
文乃 「口数が少ないのは変わらないのね」
文乃はフフッと笑いながら言うがルカは俯いた状態だった。
文乃 「明日退院出来るみたいだからまた迎えに行くわね」
ルカ 「わかりました」
文乃は悲しさを隠し切れておらず笑顔をルカに向け部屋を出ていこうとするがルカが『あの!』と言い文乃は足を止め振り返る。
私のせいで、この人に迷惑かけちゃってるら早く記憶を取り戻さないと!
ルカ 「絶対に記憶を取り戻します!一日でも早く記憶を取り戻しますから!」
ルカは文乃に勇気を振り絞って話しかけたのか大きな声で喋るが、文乃は悲しげな表情を浮かべながら笑顔で『無理に思い出そうとしちゃダメよ?先生も無理に思い出そうとすると良くないって言ってたじゃない。少しずつ思い出せばいいのよ』と言い、最後に『またね』と言って病室を出ていく。
文乃さん、悲しい顔をしてた……。私のせいで迷惑をかけてしまった。文乃さんはあんなこと言ってくれたけどでも、早く記憶を戻そう……。
あたりは暗くなりルカもベッドで眠っていると突然鍵のしまった窓の鍵か開きカラカラと音を立てながら窓が開く。
窓から誰かが入りルカの枕元にプレゼント箱とメッセージカードを置いてボソッと何かを呟いた。
? 「君に、プレゼントだ。君のことを守ってくれる。大切に使ってくれ……」
何者かは窓の方へ向かいそのまま姿を消した。
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