第15話 暁の雫石
ジュンナはザックからの手紙を両親と読み終えた。ただ、手紙には「暁の雫石」という言葉があったが、前世の記憶からしかガラスの作り方を知らないジュンナにとって、それが一体何なのか皆目見当がつかなかった。
「お父さん、お母さん、『暁の雫石』って一体何なの?」
ジュンナは焦る気持ちを抑えきれずに尋ねた。ノアと母は顔を見合わせ、首を傾げる。
「『暁の雫石』かい?聞いたことはあるが、この辺りでは見かけない珍しい鉱物だな」とノアが腕を組みながら答えた。「昔、旅の商人が、夜明けの光を閉じ込めたような美しい石だと話していたのを聞いたことがあるが、それくらいでね」
母も「私も詳しいことは知らないわ。珍しい飾り物に使われると聞いたことがあるけれど、まさか鏡の材料になるとはね」と続けた。
両親から満足な情報が得られないと分かると、ジュンナはすぐに村のロダン爺さんの家へと向かった。ロダン爺さんは、この村の歴史から動植物、鉱物に至るまで、あらゆる知識を持つ生き字引だ。
「ロダン爺さん、『暁の雫石』についてお聞きしたいのですが!」
ジュンナが息を切らして尋ねると、ロダン爺さんはゆっくりと目を開いた。
「『暁の雫石』だと?ふむ、それは古くから伝わる伝説の鉱物じゃな」
ロダン爺さんは、薄暗い部屋の奥から、使い古された革の書物を取り出した。
「この書物には、『暁の雫石』は、日の出の光が最も強く当たる、聖なる山の頂でしか見つからないと記されておる。そして、その山は、年に一度、夜明けの限られた時間にだけ、真の輝きを放つと……」
ロダン爺さんの話は、ジュンナにとって衝撃的だった。単なる鉱物ではなく、伝説に彩られた特別な存在。しかも、採れる場所も時間も限られているという。
「聖なる山……。それは、どこにあるんですか?」ジュンナは身を乗り出して尋ねた。
ロダン爺さんは、書物を指でなぞりながら答えた。
「この村から東へ、何日も歩いた先にあると記されておる。だが、その山は幻の山とも言われ、その姿を見る者さえ稀だとか……。それに、特別な結界が張られており、選ばれた者でなければ、山に入ることも叶わぬ、と伝えられておる」
「選ばれた者……」ジュンナは言葉を失った。単なる鉱物集めではない。これは、まさに前世のファンタジー小説に出てくるような、試練のようなものだ。
ロダン爺さんの話を聞き終え、ジュンナは自宅へと戻った。肩に乗ったエレナが、ジュンナの不安を感じ取ったのか、心配そうにジュンナの顔を見上げている。
「ねえ、エレナ。『暁の雫石』って、知ってる?」
ジュンナが問いかけると、エレナは頭の上で器用に色を変え始めた。最初は深い青色だった体が、瞬く間に夜明けの空のような淡いピンク色になり、次には朝露に濡れた葉のようなきらめく緑色へと変化する。そして、最後に、まるで小さな光の粒を宿したかのように、体全体が微かに輝き、ぴたりと動きを止めた。
エレナの反応は、言葉ではないが、ジュンナには伝わった。エレナは「暁の雫石」を知っている。そして、その輝きは、ロダン爺さんが語った「夜明けの限られた時間」に真の輝きを放つという伝説と重なるようだった。エレナの存在そのものが、この鉱物と何らかの深い繋がりを持っているのかもしれない。
ザックおじさんからの手紙では、材料は確保できたとあった。しかし、もしそれがこの「暁の雫石」だとしたら、ザックおじさんはどうやって手に入れたのだろうか?幻の山に挑み、選ばれた者だけが入れる結界を越え、年に一度の限られた時間に採掘したのだろうか?ザックおじさんはジュンナが錬金術を使えることを知らない。だから、錬金術でどうにかしてくれ、とは頼んでこなかった。それなのに、この伝説の鉱物を手に入れたという。
ジュンナの胸中に、新たな疑問と、そしてザックへの心配が湧き上がってきた。10日後、ザックが村に戻ってきたら、真っ先にこの「暁の雫石」について詳しく聞かなければならない
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