自作フィギュアとダンジョン配信!フィギュア職人の俺、ダンジョン人形使いになります

外人だけどラノベが好き

第1話

 ダンジョンの地下100階に到達すれば、願いが叶うと言われている。


 だからだった。俺がダンジョンに挑む理由は。


 俺、フィギュア制作者である石田太郎の人生における最高傑作。『ガラテア』


 俺自身はもちろん、そのフィギュアを一度でも目にした者なら誰もが目を奪われるほどの、とてつもないクオリティを誇っていた。


 ガラテアと共に食事をし、ガラテアと共に床につき、ガラテアと共に眠りに落ちる。


 ガラテアは俺の愛であり、俺の人生であり、俺の全てだった。


 しかし、日が経つにつれて俺は孤独感を深めていった。


 ガラテアが俺の最高傑作であり、誰もが認める名作だとしても、人間のように会話をしたり、共に食事をしたりすることは不可能だったからだ。


 だから俺は、ダンジョンへ行くことを決意した。


 ダンジョンの地下100階まで下りて、ガラテアを人間にしてほしいと神に願うつもりだったのだ。


 そうしてダンジョンに足を踏み入れたとき、奇跡が起きた。


【石田太郎、あなたのスキルは人形製作です】


【人形製作は、あなたが製作した人形が自ら動き、戦うことを可能にするスキルです】


【あなたの製作した人形は経験値を得ることで強化され、レベルが上がるにつれて新たなスキルを獲得します】


 俺に最も相応しいスキルを手に入れたのだ。


 もしかして、既に製作した人形も動かせるのではないかと思い、ガラテアを俺の人形として登録してみた。すると……


「こんにちは、ご主人様。今まで愛してくださって、ありがとうございます。ようやくお話ができるようになりましたね」


 ガラテアが初めて、俺に話しかけてきたのだった。


 この物語は、人形を愛する人形師が、自らの人形を人間とするために奮闘する物語である。


 もっとも、奮闘というよりは、少々のんびりとした楽しい物語かもしれないが。


「愛してる、ガラテア」


「私もです、ご主人様」


 実は、単なるイチャイチャラブストーリーなのかもしれない。


 ガラテアは漆黒の艶やかな長い髪を持っていた。その髪はまるで夜空を滑る絹のように柔らかく流れ、くびれた腰のあたりまで届き、彼女の動きに合わせて優雅な軌跡を描いた。


 繊細に造形されたフェイスラインを美しく縁取る髪の間から覗く肌は、一点の曇りもなく透き通り、陶器のように白い、最高級の磁器を思わせた。


 最も視線を引きつけるのは、間違いなく彼女の瞳だった。深く蠱惑的な赤い瞳は、まるで精巧にカットされたルビーを嵌め込んだかのように、玲瓏と輝いていた。


 時には冷徹な知性を、時には燃えるような情熱を宿しているかのようなその眼差しは、一度視線が合えば容易には逸らせない強烈な魅力を放っていた。すっと通った鼻筋と、熟れたサクランボのように赤くふっくらとした唇は、精緻な技術を持つ芸術家が魂を込めて作り上げたかのように完璧な調和を見せていた。


 全体として、彼女は人間とは思えないほどの非現実的な美しさを備えていた。石田太郎が『人生の傑作』と自負するだけあって、ガラテアは単なる人形を超えた存在感と蠱惑的なオーラを漂わせていた。彼女の全ての線と色彩は、見る者に感嘆と畏敬の念を同時に抱かせる、生きた芸術品そのものであった。


 自慢話はこれくらいにして、ガラテアの起動には魔石が必要だった。そして魔石はダンジョンでしか産出されないため、とてつもなく高価なのだ。


 俺が大金持ちであれば魔石を購入してガラテアを維持できただろうが、それは現実的に不可能だった。石田太郎はフィギュア職人として腕は認められていたものの、ガラテアの維持に必要な莫大な量の魔石を供給できるほどの富豪ではなかったからだ。


 だから俺が考えたのは、ダンジョンに潜ることだった。ダンジョンでモンスターを倒して魔石を手に入れる。そしていつかは100階まで下りて願いを叶える。その願いとは……


「ガラテア、人間になりたいって言ってたよな?」


「はい、ご主人様。私は……人の心が欲しいのです。そして、ご主人様のお子さんも……」


 ガラテアが顔を赤らめた。こういう時を見ると、完全に人間なんだがな。ガラテアの外見は普通の人間と変わらなかった。いや、普通と言うには語弊があるかもしれない。黒髪に赤い瞳というのは異質だからな。


 だが、見た目はとてつもない美人に見えるだけで、人形には見えない。だからガラテアと一緒に買い物に出かけても、人々はただ『ものすごい美人がいるな』と見つめるだけで、特に違和感を覚えることはなかった。


 だが、ガラテア自身が人間になることを望むのなら。俺はガラテアの願いを叶えるためなら、100階だろうが200階だろうが潜ってやるつもりだった。


 何よりも、ガラテアの動力を維持するための魔石が必要でもあったしな。


 そうして俺とガラテアは、日本ダンジョン協会に名を登録した後、初めてのダンジョン探索へと乗り出した。


 まずは100階層あるうちの最初の階層、1階層からだ。1階層のモンスターは、誰もが知っている通りスライム。十体のスライムが集まっているのを見て、ガラテアは恐る恐る俺に言った。


「ご主人様、あのスライムを狩ってもよろしいでしょうか?」


「ガラテア、狩るのはいいが、スライムの数が多すぎる」


「ご心配なく。私はご主人様の最高傑作。あんなスライムごとき、十体や二十体、恐るるに足りませんわ」


 そう言ったガラテアがスライムたちに向かって駆け出した。止める間もなかった。そして、しばし後……


 ――シュッ!


 ガラテアがとてつもない速さで動き、瞬く間にスライム十体を仕留めてしまった。


 ものすごい速さだった。

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