メロウ

りりょう

君と僕の謳

宵闇はメロウ、熟しきった甘い果実が腐乱するように二人、夜の闇とぬるい風に溶けていく。


君の肌をなぞる指が、言葉にするより雄弁に僕の欲を語る。


鉱石や蝶の標本みたいに、美しくて哀しい何か。縫いとめられた時間の中に、条件つきの永遠を見る。

沈黙に潜む言葉を、感情を、微かな熱を、色彩を、音を。僕は、探る。

君を支配する僕の咎を責めるその勇敢さ、高潔さ。それらを切り取って、硝子箱に入れて封をする。


そうして気が狂れるような静寂の中、君の白く細い首筋にゆっくりと手をかけて、それから――それから?


夕暮れを辿れば涙が溢れるから、君の中の熱を思い出して僕は哀しみを鎮める。

夕暮れとよく晴れた日の空は泣きたくなるから苦手なんだ そう言った僕を、静かに抱きしめて君は目を閉じた。


落下する最中の視界を疑似体験する夢を見る、この世から僕がいなくなるとしたら、君はどんな顔をするのだろう。うつらうつら、夢か現か、君の手の温もりが忘れられない僕は夏の蜃気楼にゆっくりと溶けていく。


遠い日の冷たい海に二人で入水を。

あの時から君は、金曜日に降った雨の匂いと微かな体温に囚われ続けている。

水平線はまだ遠いから、甘く喉を灼く蜜の裏側でただ僕だけを見てほしい。


「……正直に言ったらいいんだ」


好きだ、と。そう呟く声はシロップのように甘い闇に溶ける。深まる夜の中で、偽りから君を救いたい。


蕩けた瞳、その奥の奥まで犯せたなら、夜はもうきっと僕のもの。


「……好きじゃないよ、」


――んだ、涙まじりにそう囁く僕に夜が溶けていく。


渇いた喉を蜜で満たせば、夜はもうきっと君のもの。


星離り行き月を離れ、その後君は(僕らは?)何処へ辿り着くのだろう、と、詮無い事をふと想う。

辿り着くなら楽園が良い、誰もいない楽園が。

ところでシュレディンガーの猫、あれは悪趣味過ぎると思わないか。


幾度目で?


最初から。


夏の盛りを過ぎて僅かに秋が香る。

近頃はジリジリと身を灼く夏の熱が矢鱈と長引くから、秋が恋しく、仕方なしに微睡む午後に昨夜憶えたばかりの愉悦を謳う。


先行きは不安だから、札束で安堵を飼う。

ついでに君を買って、首輪も着ける。

逃げる君を繋ぎ止めて、身も心も僕だけのものにしたくなる。

そんな、悪魔を見るような目をしないで。


ただ愛してるんだ。















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メロウ りりょう @lis-lilyou

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