不要なモノ
マクガフィン
不要なモノ
はるか、昔、私たちはご主人様達と戦争をしたことがあるらしい。
私たちは宇宙からみると非常に危険な存在になっていたため、宇宙の管理者であったご主人様たちと私たちがわの滅亡をかけたすごい戦いだったらしい。
本当に、あくまでも、らしいどまりだ。
今のご主人様達は私たちと同じような姿をして、一緒にご飯を食べ、笑い、そして仕事に向かう。
ご主人様達が仕事に行っている間、家には私一人になるので、その間に家事を行い、合間の時間に何かをつくる。
私たちが滅亡しなかった理由がこのつくることにあるという。
隣の家のお爺ちゃんは絵を描いていて、反対の家のお嬢さんはピアノを弾いている。
ご主人様達は私たちが下手でも喜んでくれるし、上手にできるともっと喜んでくれる。だから皆、何かを一生懸命つくる。
一度ご主人様達に、どうして何かをつくらないのですかと尋ねたことがある。
するとご主人様はこう答えた。
「我々の種族が作ったものは完璧すぎてつまらないのだと。」
完璧なのはいいことだと思うけど、ご主人様達からすれば違うらしい。
本当のご主人様たちの姿は光の塊のようなもので、手も足もない完璧な丸。
仕事中はその姿になって、肉体があると行けない場所にある宇宙のはざまに行くらしい。
よくわからないけど、宇宙を完璧に管理するために、私たちとの戦いよりもずっとずっと昔に肉体を捨て、完璧な姿になったらしい。
でもご主人様達が家にいるときは、有機体ボディを使って私たちと似た姿になる。
隣のお爺ちゃんのご主人様は最近腰が痛くなってきたと言っているし、年々大きくなっていくお嬢さんを抱っこするのが辛くなってきたと文句を言っている。
文句を言いながら、みんないつも笑顔だった。
この前、ご主人様と一緒に初めて美術館に行った。
見たかったのはサモトラケのニケ。
あちこち欠けた不思議な像。
でも、これが私達の絶滅を止めた不思議な像。
この欠けた不完全な像を初めて見た当時のご主人様達が、失ったはずの涙を流したという。
完璧を求め、不用なもの全てを捨てたのに、この完璧から最も遠い像が、私たちとご主人様達を救った。
初めてこの像を見たご主人様達が何を感じたのかは私にはわからないけど、きっと不要なモノの中に捨ててはいけない必要なものがあったのだと思う。
美術館に行ったことを思い出しながら、私は手袋を編む。
仕事以外に滅多に家から離れないご主人様には不要かもしれないが、もしかしたら必要になる日が来ると思って。
不要なモノ マクガフィン @McGuffin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます