なぜか自宅で公開処刑が始まった件

 土曜の昼下がり、陽菜は自宅のリビングでテレビを眺めていた。

 昼食を終え、出かける準備もばっちり。今日は蒼真が迎えに来てくれることになっていた。


(遅いなー。時間ピッタリで来るタイプなのに……)


 そう思っていたところで、チャイムが鳴る。


「はーい!」


 玄関を開けると、そこには制服姿の蒼真が立っていた。


「……って、なんで制服なの?」


 問いかけようとしたその瞬間――


「行くぞ、陽菜」


 一言そう言って、蒼真はずかずかと家の中に上がり込んでいく。


「え、ちょ、どこ行くの!? え、ちょっと!?!」


 戸惑いながらついて行くと、ダイニングではいつの間にか両親が席に着いていた。

 二人とも、妙に真剣な顔つきで蒼真を迎え入れる。


 なぜこんなことになったのか、自分でもよく分からない。


 日向陽菜は、自宅のダイニングテーブルで妙に背筋を伸ばして座っていた。

 向かい側には、父と母。そして隣には――なぜか妙に姿勢の良い、制服姿の蒼真。


「改めまして、陽菜さんとお付き合いさせていただいている、一ノ瀬蒼真と申します。本日は、ご挨拶に伺いました」


 真顔でそう言い、深々と頭を下げる蒼真。


(な、なにこの状況!? あ、あのよくあるやつ!?)


 陽菜は蒼真を二度見してから、助けを求めるように両親に目をやる。


 しかし、最初に口を開いたのは父だった。


「陽菜はね、小さい頃はプリンが大好きで、レストランでひと口食べるたびに拍手してたんだ。この子は将来きっといい子に育つ、私はそのとき確信したよ。」


「ちょ、ちょっと!? 恥ずかしいからやめてよ!!」


 横から叫ぶ陽菜の声を、母がやんわり遮る。


「今、大事な話なのよ。少し静かにしていなさい」


「むぅぅ……」


 なぜか母に怒られたような形になったが、雰囲気に押されて陽菜は口をつぐむ。 でも、なんとなくわかってきた。蒼真が仕組んだこの流れに、両親もまんまと乗っている。  ――私はまた、蒼真の罠にはまっている。


 悔しそうに口を閉じた陽菜の横で、父はさらに語る。


「他にもね、保育園のお遊戯会でうまく踊れなかったとき、陽菜は、舞台の隅っこで涙目になってね。それでも最後まで立ってたんだ。そんな姿を見て、お父さんは泣いたよ」


(なんで今そんなエピソードを!?)


「それから――あれは小学校低学年のころだったか。夜中に小さな声で『やばい……』って言ってるから何かと思えば、おねしょしてたんだ。恥ずかしがってな、水をこぼしただけって言い張っててなあ」


「言うなああああああああ!!」


「……そんな可愛い娘を、そう簡単に嫁にやれると思うなよ」


「ちょちょちょ、どうなってるのー!!?」


 混乱する陽菜の横で、蒼真が椅子から立ち上がり、背筋を伸ばす。


「――お願いします! 陽菜さんを僕にください!」


 え、えええ!? ちょ、え!? それ、今言う!?


 陽菜の脳内は完全にフリーズしていたが、それでも頬は真っ赤で、胸の奥がじんわりと熱い。


 すると父が立ち上がり、拳を握って言い放つ。


「よろしい、ならば対決だ。陽菜のエピソードトークで勝負!!」


「や、やめてえええええええ!!!」


 かくして、陽菜の羞恥地獄は、またひとつ幕を開けるのであった。


◆◆


 その様子を、二階の部屋のドアのすき間から盗み見ていた人物がひとり。

 陽菜の姉、日向彩花は、階段の途中から顔を出し、ぽかんとしていた。


「うわー、陽菜また蒼真くんにやられてる……」


 頬杖をついて、くすくすと笑う。


「……ちょっとおもしろそう。今度、私も“仕掛け役”にしてもらおっかな」




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