6話 鞭でしばき倒そう
自分本位な受付嬢達の言葉も知らずに…私は、本来クルマユという名前らしいが冒険者しか立ち寄らない為"初心者の森"として呼ばれる森の入口に到着。
そんな森の入口には、まだ若く成長途中なひよっこ達が集まっているが彼達から少々視線を集めているのに気づく。
何故だろうと辺りを見回すと、周りはほとんどパーティを組んでいてソロなのは私くらいだ…これは目立つなと考えている私を見て「新顔だし誘ってみよう」と言う好奇心旺盛な話し声がして来たので、正規の道から外れ距離を取って歩いて行くことに。
…仕事や趣味で外国へ訪れただけでも、常識の違いで苦労したので世界すら違うここではボロが出ないように気をつけていきたいのだ。
決して、久しぶりに注目されて緊張してしまったなんていう理由ではない。
そして、人から逃げるような行為は受付嬢へ積極的に話しかけに行った事と合わせて見ると昔の友人から冷やかされそうだが…
ソルシエールさんのような人物は例外なのだ。
彼女のように自分の芯がある人…良く言えばマイペース・悪く言えば自己中心的な人は、親しくならない限りは他人に踏み込まず自由にしているので一見普通に距離をとる方が良く見える。しかし、ああいうタイプは突然暴れだしたりするので下手に外から引っ掻き回されるくらいなら近づいた方が良い。
そちらの方が、交渉もしやすいしそのような実力者に気に入られれば現地でも他の人から認められやすくなる。
とは言いつつも、一人の力には限界があるモノだしまた彼女のような人を見つけたらパーティを作っていこうと考えている。
先程のひよっこ達に、そこまでの素質は感じなかったのでもし見つけたら程度の話で暫くはソロで楽しんでいこう。
幸い、今回のラッシュラビット討伐は兎と暮らした経験がある私としては知識がある分やりやすく当たりと言える依頼でソロでも何とかなる範囲だ。
「依頼を渡してくる時に、含みのある笑顔だったのは気になるが…何とかなるだろう」
何かあったとしても、現実と勘違いしてしまいそうな程リアルでもデメリット付きで死に戻りが出来るゲーム内では勉強料として許容出来る範囲。
虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うように、慎重の判断も大事だがそればかりでは何も得られない。
私の大胆さが祟って、現実では全身不随の大事故になった訳だが流石にあの時のような油断はもう無いのだ。
彼を知り己を知れば百戦殆からずなんて言葉もある通り、兎の生態を踏まえ対策を練り私の出来る事を無理せずこなして行けば大した事は無いはず。
「それに便利な鑑定スキルで痕跡を探すのが現実の倍くらい楽なのてもでかい…って、この丸まっこいのは兎のフンか?」
ラッシュラビットの痕跡を見つける為に、鑑定を掛けまくりながら足元に注意して歩いていると遂にそれらしき物を見つけられた。
兎と暮らすまで知らなかった事だが、兎のフンは硬便・食糞二種類があり今回見つけた硬便は他の生物と同じ一般的な排泄物だ。
後者の食糞は、葡萄の房のように繋がった形で特徴的だが肛門に直接口を付けて食べるので中々目にする事は無い。
目にするとしたら、体調不良や途中でハプニングが起きている時なので狩りやすくて楽だと期待していた。
硬便でも、毛が混じっていたりして異常があればチャンスだったが落ちていた木の棒で突いた感じからは比較的新しい事しか分からなかった為残念だ。
その後も、期待していた弱った個体の痕跡は見つからなかったものの最初の手がかりを元に痕跡を辿っていき探し始めてから三十分経った辺りで叢に隠れる白色の後ろ姿を見つけた。
(恐らくコイツで合ってるだろうが…鑑定)
【鑑定部分成功
ラッシュラビット 名無し
スキル…突進・脚力強化・刺突】
【突進…何度も繰り返した技】
【脚力強化…足限定の未熟な肉体強化】
【刺突…貫通力強化】
これが初めて見る魔物となるので善し悪しは分からないが…情報は宝なのでお馴染みな日記帳を取りだし、主観だが軽くメモを残しておく。
情報を纏めると注意すべき事は…いや、思い込みは危険なので臨機応変さを大切にしよう。
まだ標的に動く様子は無いので慎重に近づいていくが…足元で細い枝が折れる音がした。
焦る思考を落ち着かせながら一旦動くのをやめて万が一にも悟られぬよう視線も逸らす。
………
……
(…そろそろ良いか)
バレないように息を限界まで潜めながら、そっと観察して見ると相手に動く様子は無く私に気づいた様子も無いので先手を取れる状況だ。
戦う事を意識すると、現実の身体では今尚続いている入院生活の苦労から解放されたんだという喜びが出てくる。
それにより、私は極度な興奮状態になってしまいそうになったが日記帳と入れ替えるように取り出した鞭を握りしめることで何とか耐えた。
冷静さを欠く事は、失敗の要因となる為ゆっくりと深呼吸をしつつ落ち着くのを待ち…獲物と近づけたのを確認して一気に立ち上がる。
「五感強化、躾」
「キュッ?!」
先手必勝という事でスキルを発動しながら、鞭で目を狙った攻撃を仕掛ける。
両目を潰す為に、横から薙ぐような攻撃になった事で奇襲は成功したが間一髪でズラされ耳を叩くだけで終わる。
「スキルの応用は上手くいきましたが死角を狙い過ぎましたね…」
「キュキュ!」(脚力強化、突進!)
「と、危ない危ない」
躾のスキルは、本来ペットや家畜化された生物にするものだが身体が覚えていると言った感覚に近い勘を信じて使った。
すると、兎は敵が見えたらすぐ逃げる上に全方位を見渡せる視界で逃亡を許すが良い具合に敵意を跳ね上げさせられた。
予想出来ていても間一髪で避ける事しか出来ない程の、殺意が籠った突進をされたのは誤算だが逃げられるよりかはマシだ。
それに、早い動きだが鞭をしならせ甲高い音と共に殴打する事で勢いを削ぎ可愛らしい外見で異彩を放つ額の角を躱せられる。
興奮している相手は、理性を失い単調な攻撃しか出来ないものだが如何せん初戦闘で私も完璧な動きとはいかない。
暫く互いに避け合い、決め手に欠けると言った風に思えたが鞭に慣れてきた私の身体はラッシュラビットに対して決定打となる攻撃に成功する。
「ぎゅ゛?!!」
「鼻先と目の間は死角…今、捉えました」
戦闘の中で昔の感覚を思い出し、鞭を身体の一部のように振るい緩急を付けた連撃で一気に仕留めにかかる。
それで、ラッシュラビットは防戦一方となり遂に虫の息となったが…
「きゅーーー!!!」(刺突!!)
「その攻撃も、想定内ですよ」
最後の力を振り絞って捨て身の突進をして来たのを、鞭をその進行方向に垂らしておいて一気に跳ね上げさせる事で無防備なお腹を空気が割れる音と共に強く弾いた。
血走った野生の瞳は、その可愛らしい外見とあまり合わないものだなと考えながら私は鞭を振り上げ…命を狩った。
◇◇◇
その後は、一度見つけた経験と習性を何となくだが理解したお陰で順調に見つけていく事が出来た。
これが、アナウサギのように群れて穴を掘るタイプだと今回の倍は苦労しただろうがノウサギに近い習性だったのが私に味方した結果だ。
最終的に十匹見つける事が出来た私は、この世界では初の成果となる依頼が満足のいく結果となった事で終始足取り軽く冒険者組合へと進んで行った。
Spread World〜神官の異世界生活〜 老いには逆らえん @tukaremeda
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